抄録
本居宣長『古事記伝』の「仮字(カナ)の事」は万葉仮名の二類の書き分けを初めて指摘したものであるが、橋本進吉はこれをあまり高く評価せず、"本居宣長が見付けたのは、特定少数の語についての仮名のきまりであって、コ音・メ音等の仮名全体に通じてのきまりではない。十数個の仮名に二類の別があるのを発見したのは石塚龍麿である。"とする。しかし、『古事記伝』の「仮字の事」を詳しく検討することにより、宣長が、キヒビミケメコソトモヨ等について二類の区別があったことを発見していたこと、さらに、二類の仮名を配列するにあたって中国漢字音(中古音)を念頭に置いていたらしいこともわかる。