抄録
19世紀以降、ルール地域はドイツを代表する石炭・鉄鋼の産地としてドイツ経済の牽引役を務めてきた。しか
し1950 年代末の石炭危機を境にこの地の産業は急速に衰え、あとには多くの負の遺産が残されることとなった。
この状況を打開するため、地元ノルトライン=ヴェストファーレン州は1989年から10 年をかけてエムシャーパー
ク国際建築博覧会というプロジェクトを実施した。これは州が資本金を全額出資する公社を設立し、そのもとで
市民参加によるコンペやワークショップなどを積み重ねて地域の環境改善と産業構造の転換を図っていくという
ものだった。このプロジェクトは大きな成果を挙げ、2010 年にはルールの中心に位置するエッセン市がEUの選定
するヨーロッパ文化首都に選ばれた。この経緯についてはこれまでにもわが国で少なからず研究・報告がなされ
てきたが、その中心は都市再生や環境改善といった面にあり、観光という点からは必ずしも十分に論じられてこ
なかった。そこで本稿では、独自の現地調査の結果をもとに産業遺産観光の推進という観点からルールの取り組
みを整理し、その成果について評価を試みた。