2019 年 101 巻 p. 235-250
本稿ではヤン ヨンヒ『朝鮮大学校物語』に実話性と証言性が付与されていることおよびそれらが朝鮮学校をめぐる排外主義と表裏をなしていることを指摘したうえで、実話性と証言性を切り離した読みを模索した。小説において主人公は特権的な差異を帯びているが、主人公が恋人と失恋する場面では、抑圧的な場だった朝鮮大学校が、主人公の差異が有効に機能する場として語られていることを明らかにした。朝鮮大学校という空間の意味の転換をふまえると、『朝鮮大学校物語』は、差異と承認のメカニズムをあばく小説であるといえる。そのうえで、実際に行われた朝鮮大学校と武蔵野美術大学の壁を超える試みを参照しつつ、『朝鮮大学校物語』の批評性をさらに跡づけた。