中野重治「空想家とシナリオ」は従来転向や生産関係の問題から主として論じられてきたが、本稿は一九三〇年代に論じられていた技術論との関わりや中野重治文庫所蔵書籍の書き込みから、社会主義リアリズム論争に関係した「世界観」というテーマが「空想」のモチーフには読み取れることをまず論じた。さらに、「空想」には「空想的社会主義」の位置づけという問題が込められており、史的唯物論に対する逆行的な「さかのぼり」という要素が意図されていること、また資本主義に対する「敵対」性の問題が小説に潜められている点について述べた。最後に、「空想」と資本の再領土化の運動との関係について考察し、それに対する形で「駄目」さや「食違い」が小説では描き出されていることを指摘した。