2022 年 106 巻 p. 160-175
野田宇太郎は一九五〇年末に文学散歩を考案し、東京のまちを皮切りとして、全国各地の「近代文学の足跡」を訪ね歩いた個人的記録を書き始め、関連著作を継続的に刊行した(第一の文学散歩)。その後、野田の文学散歩を模倣したような案内記の出版が続くようになった(第二の文学散歩)。また、ウィキペディアタウンというまち歩きと絡めた編集イベントが開催されるようになると、それが文学散歩の理念とも重なるようになった(第三の文学散歩)。今日における文学散歩は、「歩く」「書く」という取組みの先に、文学を「語る」ことをも視野に入れながら、ウィキペディアという仕組みを通して、「記憶のコミュニティ」をつくり合う「私たち」の活動へと変化している。