津島佑子の長編小説『あまりに野蛮な』(講談社、二〇〇八年一一月)は、一九三〇年に起った霧社事件(日本の統治に耐えかねた台湾の原住民が、多くの日本人を殺害した事件)と、台湾の原住民に古くから伝わる伝説に材をとることで、具体的な国籍や民族性を身に帯びた人間が、なおかつ普遍的な価値の創造へと向かう道すじを描き出している。本稿は、一九三〇年代に翻訳紹介された「デュルケム」に師事し、台北高校でフランス語を教える社会学者「明彦」と、その妻「ミーチャ」の死生観の相違に着目し、後者に見られる生と死の円環とその意味するところを分析的に論じることを目的とした。