日本近代文学
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論文
明治三十年前後の虚子俳論
――日清戦後の「文学」の中で――
田部 知季
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2017 年 96 巻 p. 1-16

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抄録

本稿では、明治三十年前後の虚子俳論を日清戦後という時代相の中に布置し直し、その曲折の実態を明らかにした。当初俳句を叙景詩と定位していた虚子は、「大文学」待望論が加熱する日清戦後文壇の中、次第に人事句や時間句を支持し始める。そうした複雑な表現内容の追求は、定型を逸脱した「新調」を招来するが、虚子はその背後で俳句形式からの「蝉脱」をも提唱していた。当時の虚子は俳句を「理想詩」として擁立することに挫折した反面、自立化が進む新派俳壇において指導的な地位を確立していく。虚子が明治三十年中頃に至って定型へと回帰していくのも、そうした彼を取り巻く状況の変化に起因すると考えられる。以上の動向を描出することで、俳句というジャンルの通時的な実体性を批判的に問い直す、俳句言説史の一端を提示した。

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