日本考古学
Online ISSN : 1883-7026
Print ISSN : 1340-8488
ISSN-L : 1340-8488
胎土分析法と分析例
大阪府下の埴輪窯跡出土埴輪の産地同定
井上 巖
著者情報
ジャーナル フリー

1997 年 4 巻 4 号 p. 91-107

詳細
抄録

焼成温度の低い縄文土器,弥生土器,土師器,埴輪等では胎土を構成する粘土鉱物や造岩鉱物への熱による影響は比較的低く,X線回折試験で粘土鉱物や造岩鉱物を検出することができ,土器胎土本来の鉱物組成に近いものが得られる。鉱物組成を解明することで土器がどのような地質環境の粘土を使用しているかが明らかになり,鉱物組成から土器の生産領域が推察される。また,土器胎土に混入された砂の粘土に対する混合比は土器を製作した集団に特有の混合比であり,同じ集団が製作した土器の砂の混合比はほとんど同じものである。この集団に特有の混合比を比較することで製作集団を判別することができる。
しかし,焼成温度が高温領域にある須恵器,陶器,磁器等では熱による鉱物の分解が著しく,鉱物のほとんどは分解してガラスに変質している。X線回折試験では本来の粘土鉱物と造岩鉱物の検出はなく,高温で生成するムライト,クリストバライトと温度による変質が軽微な石英が検出される。この高温領域で生成されるムライトとクリストバライトの検出状況から焼成温度の領域が推察される。
蛍光X線分析による元素分析では焼成温度が高くても低くても本来の元素は残っており,熱による影響は軽微である(アルカリ元素等の軽元素の一部は熱によって励起発散される傾向があるが,その量はごく少なく,全体の重量%に対する影響は少ない)。
須恵器,陶器,磁器などの胎土は特有の元素組成を有しており,特有の元素組成は製作された地域の地質を反映するものであり,特有の元素組成に基づいて産地が同定される。
元素組成だけからではどのような鉱物組成であるかを判断することは難しい。
しかし,X線回折試験と蛍光X線分析の2種類の分析法を併用することでそれぞれの短所が補われ,焼成ランクが低温領域から高温領域までの胎土のより正確な分析が可能である。
X線回折試験と蛍光X線分析を使っての分析法とデータの処理法を提案し,それに基づいて大阪府下の代表的な埴輪窯跡の円筒埴輪の分析を行ない,明瞭な産地同定ができ,良好な結果を得た。

著者関連情報
© 有限責任中間法人日本考古学協会
前の記事 次の記事
feedback
Top