日本民俗学
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論文
祭礼における旦那衆の権威の創造
―埼玉県熊谷市 熊谷うちわ祭を事例に―
市東 真一
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2019 年 297 巻 p. 67-92

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抄録

 本稿は、埼玉県熊谷市で開催される熊谷うちわ祭の旦那衆である総代と鳶との関係を軸に、現在の祭礼における旦那の実態とその権威の創造について論じていく。

 従来の研究では、旦那衆の経済力や権力によって祭礼が運営されてきた認識で研究は行われてきた。現在でも熊谷うちわ祭では行政がほとんど関与せず、年番町の旦那衆が総代として祭礼の一切を統括する祭礼となっている。そこで本論では、熊谷うちわ祭の旦那衆である総代の中で、最高責任者の大総代の役割に注目して、現在の祭礼における旦那衆の存在と彼らを取り巻く人びとや町内との関係性について考察する。そのうち、本稿では①総代に就任する人びとの変化、②祭礼資金における総代の役割の変化、③総代としての意識の変化、④総代を取り巻く鳶や祇園会などの青年組織の意識の四点に注目して分析を試みた。

 本稿では、はじめに大総代が創設された理由について考察した。大総代の創設に関しては、祭礼の規範と当時の祭礼の置かれた状況を踏まえて分析した。その後、現在の祭礼における大総代の役割である祭礼の会議の議長、外部団体への交渉、祭典期間中のパフォーマンスについて明らかにした。その後、直接祭礼を実行する鳶についても分析を加えた。それ以外に、旦那衆を取り巻く町内との関係性について考察した。ここでは、文献資料や聞き書きによって明らかになった、かつての旦那衆の姿を明らかにし、現在の祭礼に関する資金源の変化や総代の人数の変動をもとに、旦那衆がどのように変化していったのか考察した。あわせて、町内の人びとが旦那衆をどのように認識しているのか検討した。

 これらの分析により、旦那衆の権威は彼らに雇用される鳶との相互交渉の中で創造されていることが明らかになった。本稿では、先行研究で指摘されてきた町内での経済力や権力だけでなく、彼らを支える下位の人びとの影響について報告する。

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