新潟医療福祉学会誌
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巻頭言
国家資格を全うするということ
笠原 敏文
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2022 年 22 巻 2 号 p. 1

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診療放射線技師法第1条には“この法律は診療放射線技師の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって医療及び公衆衛生の普及及び向上に寄与することを目的とする”とあります。診療放射線技師の歴史をたどると、エックス線を取り扱う技術者の資質と身分をはかることをねらって前身の診療エックス線技師法が1951年6月に制定されたことが始まりとなります。その後医療への放射線の利用が大幅に増大するなか、取り扱う医療機器および医療技術の高度化に伴って幾度かの改正がなされ、1968年には診療エックス線技師法の一部を改正し診療放射線技師法が創設されました。扱う放射線に放射性同位元素や高エネルギーX線が追加され、1983年には時代の要請に対応し、診療放射線技師法に一本化されました。

私は1980年に診療放射線技師の資格をとり、その後38年間にわたり病院において臨床業務に携わったのち、当学で教員として5年目を迎えております。ここで放射線を扱う医療機器の変遷を少し振り返ってみます。1980年頃のX線検出器はフィルムがすべてであり、少ない人体透過X線をいかに効果的に画像化するかがX線撮影技術の肝でありました。増感紙との組み合わせや散乱線の除去など、より少ないX線で有用な画像を得ることに邁進していたことが懐かしく思われます。1985年頃よりフィルムに代わるX線検出器としてIP(Imaging Plate)を用いたCR(Computed Radiography)が台頭し始め、デジタル画像へと変遷していきます。その後2000年頃にはIPに代わりFPD(Flat Panel Detector)が飛躍的な発展を遂げて現在に至ることとなります。時は前後しますが1972年にEMI(英)中央研究所のハンスフィールドにより発明されたCT(Computed Tomography)は当初頭部用のみであり、全身用CTが普及し始めたのは1980以降となります。1986年にヘリカルCT(シングルスライス)、1998年には4列のMDCT(Multi-Detector row CT)へと進化し、現在は最大320列のものも普及しています。MRI(Magnetic Resonance Imaging)はCT装置の普及から5年ほど遅れて全国に普及しました。このように1980年以降のモダリティの発展には目を見張るものがあります。ひとえにコンピュータによる画像のデジタル化とテクノロジーの急速な進化の賜物と言えます。医療機器は早いペースで進化し、それに呼応して医療技術も素早く対応することが問われています。

また業務面においても2020年に医療放射線の安全管理を行う医療法の改定があり、診療放射線機器を用いた診療を行う施設の管理者は“診療放射線に係る安全管理のための責任者を配置すること”が義務付けられました。この目的の中には国民の医療被ばく低減の最適化を目指す項目も含まれており、該当する放射線診療機器等における精度管理やその記録、その医療機器で放射線診療を受ける者の医療被ばくの線量管理が課せられることとなります。また2021年10月には医師の働き方改革に伴う改正診療放射線技師法が施行され、静脈路の確保とそれに付随する業務(薬剤の投与・抜針・止血)等が拡大されました。少子高齢化が進み社会環境も変貌しつつある中、医療技術の益々の高度化や医師不足に伴うタスクシフト / シェアの推進など我々医療技術者を取り巻く環境は様変わりの様相を呈しています。そして今後も業務はますます拡大し、それに伴う責任も増大していくものと思われます。

大学在学中は国家資格の取得を目指し、多くの知識そして技術を習得します。しかしその経験はいつまで活用できるでしょうか。社会にでて大学で学んだスキルが活用できる期間はそう長くはないかもしれません。それでも有資格者としては、医療及び公衆衛生の普及及び向上に継続して励まなければなりません。そしてそれは何よりも安全で安心できる、科学的根拠に基づいた医療技術の提供でなければなりません。国家資格取得は“これから進もうとしている専門分野への登竜門”としてみれば、その後に続く来るべき時代にどう対応できるかを考え行動できることが重要となってまいります。いかようにも変化する環境に、動揺せず立ち向かっていけるような自立した医療技術者をいかに育てるかが今後の課題であろうと考えています。

 
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