新潟医療福祉学会誌
Online ISSN : 2435-9777
Print ISSN : 1346-8774
22 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
巻頭言
総説
  • 椿 淳裕
    2022 年22 巻2 号 p. 2-6
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/30
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    運動や身体活動は、脳を含む身体を健康な状態に保つ一方で、身体の不活動は喫煙や高血圧、高血糖などとともに種々の病気の誘因となる。脳に注目すると、認知機能の低下も身体不活動によっても生じるとされ、日本において患者数の増加が著しい内部障害では、認知機能の低下を有する割合が高い。これまで内部障害に対する理学療法は、運動耐容能の改善や身体活動量の増加に主眼が置かれてきたが、運動療法がもたらす脳機能への影響も整理しておきたい。内部障害を持たない方々に対する運動は、脳の構造や機能を変化させる。脳の酸素化に着目すると、1回の運動による変化は、運動の負荷量や負荷方法、姿勢によっても異なる。研究レベルの認知機能の改善が対象者の日常生活にどこまで影響するかなど、解決すべき課題は多いが、新しい視点で運動療法の効果を考えるきっかけとしたい。

原著論文
  • 前田 理歩, 木下 直彦, 高野 晃輔, 皆川 璃子, 鈴木 健司, 石上 和男, 柴山 純一, 瀧口 徹
    2022 年22 巻2 号 p. 7-18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/30
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    2020年1月から突如始まった新型コロナウイルスのパンデミック感染により我が国の大学生の教育が対面授業中心から一挙に各種メディア授業に急遽変更した。これによりメディア授業がどのように大学生の学習意欲の減退或いは高揚に繋がっているかをWeb調査会社 (メルリンクス社)の全国モニター413名で調査した。調査法はリッカート尺度の結果を用いた二値ロジスティック回帰分析等による計量分析と自由記載のKH Coderを用いた共起ネットワーク分析による質的分析を併用した。その結果、計量分析では学習意欲が大幅に減退した学生が8.2%、ある程度減退したが41.6%であり、逆に学習意欲が高揚したが11.3%であった。学年が低いと、あるいは重大な通信障害が頻繁に起こると学習意欲の減退を引き起こしやすいことが明らかになった。加えて、質的分析では文脈の解析から学生の様々な反応が明らかにされた。学生はメディア授業では通学が不要になったので時間的余裕ができた点、教材動画を繰り返し見ることができる点、周囲に気を使わないで済むなどの諸点を肯定的に捉えていた。その反面、学友との関係の疎遠化等が学習意欲の減退を招くことや不適切な姿勢で長時間PC画面を見続けることによって生じる学生のVDT症候群等について配慮が必要なことが明らかになった。これらの結果から今後教員は新型コロナウイルス感染症対策を前提として、学生の学習意欲と学習効果に配慮した各種メディア授業の質の向上と従来の対面授業との適切な組合せを図ることが重要であることが示された。

  • 中井 良育
    2022 年22 巻2 号 p. 19-32
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/30
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    本研究は、対人コミュニケーション・スキルを構成する諸要因と対人関係のストレスの相互関係を明らかにし、医療・保健・福祉分野に従事する対人援助職の人材育成や職場定着のあり方を検討していくことを目的とした。生活(支援)相談員、介護支援専門員、生活支援員、介護職員、看護職員を対象に調査を実施した結果、次の3つが示唆された。第1に、コミュニケーションにかかる教育・訓練の機会を得ることは、社会的状況判断の対応力を高めるとともに業務遂行に伴う重責や不安や将来を悲観する利用者への介護や支援に伴うストレスにポジティブな影響を与えることである。第2に、社会的状況判断は、利用者が抱える不安や悩みを捉え、利用者の課題解決につながる重要な能力である。第3に、社会的状況判断の理解力は、職場内の人間関係だけでなく、業務遂行に伴う不安を低減させることである。

    以上の考察から、次の3つの結論に至った。第1に、仕事を通じて受ける指導やアドバイスを受ける機会が就業形態の違いや、特定の職種に偏らないような人材育成策が必要である。第2に、対人援助職の職場定着を促すためには、コミュニケーションに関する知識や技能を高めるために受ける研修や講習に積極的な参加を促す取り組みが必要である。第3に、指導やアドバイスを受ける側が上司や指導者の考え方や方針を受容できる指導方法を検討することである。

症例・事例・調査報告
  • 佐藤 真由美, 斎藤 瑠華
    2022 年22 巻2 号 p. 33-39
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/30
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    パフォーマンス評価においてルーブリック評価方法は、「看護教育における能力やスキルの取得度合いの評価に有効とされ、学習者自身がいま自分は何ができているか何ができていないかの自己評価、学習者同士による相互評価で力を発揮する」と述べられている。また、看護学生の臨地実習においては、最も真正性の高い課題であるため、臨地実習前の講義においても真正性を高めるシミュレーション教育が必要とされる。そこで小児看護学の講義においてシミュレーション教育を使ったプロジェクト学習にポートフォリオ評価を基盤としたルーブリック評価を実施し、学生のルーブリック評価の有用性を目的に実施した。その結果、ルーブリック評価表を用いることで、内発的動機づけとなり、ゴール達成のため問題解決していくことで学生の自己学習力が培われた。

    また、プレゼンテーションでは「知の共有」があり、学生個々の不足した部分を再構築することにつなげられたと考えられる。学生がルーブリック評価を使用して良かったかのアンケート結果では80%以上の学生がよかったと回答しており、学生は自己学習力を実感しながら到達できたことで自信を持つことができ、この経験を実習で活用したいと意識付けができたと考える。しかし学生には、ルーブリック評価表の内容の理解の確認や時間管理などのスケジュールも視野に入れながら実施する必要があることが示唆された。

その他資料
  • 田中 康博, 南都 智紀, 辰巳 寛, 田村 俊暁
    2022 年22 巻2 号 p. 40-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/11/30
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    2022年2月24日にロシア連邦(ロシア)軍がウクライナへの侵攻を開始した。国際的に非難されている1カ月以上にも及ぶこの行為は、現時点(2022年4月6日)でもウクライナの医療制度に壊滅的な影響を及ぼしている。

    本稿では、ロシアに対する制裁の一環として実施または考慮されているボイコットのうち、学術分野におけるボイコット(アカデミックボイコット)が与える医療や健康への影響を中心に報告した。医学系雑誌のボイコットによって、ロシア内での貴重な事例や治療手技が世界に発信できなくなり、学術的協力事業でのボイコットは研究の質の低下や研究の停滞などを招くと予想される。その結果として、世界中の医療の発展や健康維持にも悪影響が出ることが懸念されている。

    本稿ではこれまで報告されているアカデミックボイコットに関する報告、また世界の医学系雑誌と本邦での学術団体におけるロシアへの対応をまとめた。

    健康や福祉の一端を担う者として、今我々が何をすべきか、医療や健康、そして平和や人権の意味を改めて考えるきっかけとして、本稿がお役に立つのであれば幸いである。

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