2023 年 23 巻 2 号 p. 2-8
近年、マラソンやオープンウォータースイミング、登山や水中レジャー活動といった自然の中で行われるスポーツ・アクティビティの競技人口が増加している。これらのスポーツやレジャー活動が低気温下や冷水下といった寒冷環境下で行われる場合には、体温の低下を防ぐために皮膚血管収縮やふるえ熱産生といった体温調節反応が生じる。さらに、運動中には体温調節反応だけでなく、運動に伴い活動筋における熱産生が生じることから、体温の低下が起こりにくいと考えられる。しかしながら、実際に寒冷環境下でのレジャー活動や運動時には体温が過度に低下する「低体温症」が発症する場合がある。体温調節反応に加えて運動に伴う熱産生が起こるにもかかわらず低体温症が生じることから、運動時に発症する低体温症には通常の熱収支とは異なる「運動時特有の要因」があると考えられ、現在までいくつかの研究において検討されている。本稿では、ヒトが寒冷環境下でのスポーツ・アクティビティを安全に行い、ハイパフォーマンスを発揮するための一助になることを目指し、寒冷環境下で生じる体温調節反応や運動がそれらに及ぼす影響について概説し、運動時にも関わらず生じる低体温症の発症メカニズムやその予防法を考える。