抄録
没食子酸(H4A)を配位子とし,Al(III)との間の錯体(1 : 1)生成反応を,分光光度法で調べた.酢酸緩衝剤を用いてpHを4–5に保持し,Al(III)イオンの濃度増加に伴う配位子の吸光度の減少量(pH一定下)から生成錯体種を解析した.この条件下では,Al(III)に対する没食子酸と酢酸イオン(緩衝剤)の競合反応および没食子酸に対するAl(III)と水素イオンの競合反応が起こっており,水素イオン濃度および酢酸イオン濃度の増加に伴いAl(III)-没食子酸錯体の生成量が減少した.没食子酸の酸解離定数とAl(III)-酢酸錯体の生成定数を用いて解析した結果,このpH領域での生成錯体種はAl(H2A)であり,Al(H3A)の存在は認められなかった.Al(H2A)の生成定数は,log K = 8.61 ± 0.02であった.この値は,没食子酸のpK2の値すなわち,配位子,H2A (酸解離したフェノール性ヒドロキシ基)の水素結合定数にほぼ等しいことがわかった.