工業化学雑誌
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ヒ素-イオウ系ガラスの熱伝導率
服部 信南 努田中 雅
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1966 年 69 巻 9 号 p. 1737-1740

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抄録

カルコゲン化物ガラスの熱的性質に関する報告は非常に少ない。この研究はヒ素-イオウ系ガラスの熱伝導率を測定し,その組成依存性を構造論的に考察することを目的として行なった。
ヒ素含量が18.7~44.1原子数%の組成範囲にある試料を常圧蒸留法によって生成し,溶融石英を標準試料として比較法により熱伝導率を測定した。室温より約80℃までの平均温度範囲で,熱伝導率は温度上昇にともない,わずかに増大する。室温付近における値は(6~10)×10-4cal/cm・sec・℃の範囲であった。ヒ素含量が0から約40%(硫化ヒ素(III)As2S3に相当する組成の近傍)までの範囲で,熱伝導率はヒ素含量の増加にともない増大する傾向を示す。プラスチックイオウ(S)nに添加されたヒ素原子が分岐点となって起こるガラス骨格中での〓構造や,〓As-S-As〓構造の形成が,分子鎖内および分子鎖間の熱伝導を促進すると解釈でぎる。硫化ヒ素(III)の組成をこえて,さらにヒ素含量が増加すると,熱伝導率の変化は組成に対して敏感でなくなる。これは,S-S結合やAs-S結合よりかなり結合エネルギーの小さいAs-As結合が生じ,熱抵抗を増大させる効果をもつためであろう。

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