日本化學會誌
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蛋白に關する研究(第二十報)
生體蛋白の彷徨變異に就て(其の一)
近藤 金助
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1933 年 54 巻 5 号 p. 386-398

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抄録

1. 生體及びその生産物中の蛋白が可變性であることを蛋白の成分團説に據つて立論し生體蛋白の變異には彷徨變異と相對變異との二種あることを記述した.
2. 同一の生體又は其の生産物から所謂同一方法を用ゐて蛋白を單離しても全く同一な蛋白を單離することは不可能であることを蛋白の成分團設によつて立論した.
3. 以上の立論を證明する爲めに岡山縣農事試驗場産の小麥“江島神力”を岩手,千葉,愛知,京都,岡山,愛媛,佐賀,鹿兒島のS府縣農事試驗場にて栽培し其の收穫小麥から同様な方法によつてGliadin及びGluteninを單離した.
4. 各地にて收穫した小麥“江島神力”の一般成分1000粒の重量及び容積等を檢査した結果同一品種の小麥も栽培條件の差異によつて小麥の品質即ち理化學的性質が著しく異なることを實驗した.
5. 小麥蛋白研究の歴史を概説しGliadin及びGluteninは小麥の胚乳中に存在しLeucosin, Globulin及びProteoseは小麥胚中に存在することを示した.
6. 單離したGliadins及びGluteninsの含糖類量及び含窒素量を定量した結果は小麥の産地毎に微量ではあるが差異を示した.
7. 此の差異は全く小麥の栽培條件即ち小麥蛋白の生成條件の差異に原因する所の小麥蛋白の彷徨變異と單離操作の微かなる差異に歸すべきことを詳述して生體蛋白には彷徨異性があると云ふ筆者の學説を證明した.
8. 此の結果によれば異品種の小麥はもとよりのこと同一品種の小麥も栽培條件の差異によつて小麥の品質即ち實用價値を異にするがその原因は小麥り主要蛋白である所のGliadin及びGluteninの本質が夫々相違するためではなくして全く量的變動のためであることが明瞭となつた.このことは一般の生物及びその生産物に就ても同様であらう.
本實驗に用ゐた小麥の品種裁定と栽培は竹崎教授の御配慮を受け又並河,木原兩教授からは有用なる御助言を得,又繁雜にして多くの勞を要する所の蛋白の單離精製,窒素並びに糖類の定量は林常孟氏,村山仁氏,山田孝雄氏,岩前博氏等の助力によつたのである.記して諸氏に對して謝意を表す.

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