日本化學會誌
Online ISSN : 2185-0909
Print ISSN : 0369-4208
蟻酸ソーダの熱分解による蓚酸ソーダ及び炭酸ソーダの生成並に其の機構の研究(第三報)
III純蟻酸ソーダの熱分解速度
高木 外次
著者情報
ジャーナル フリー

1939 年 60 巻 9 号 p. 813-825

詳細
抄録

1) 蟻酸ソーダの分解反應速度を271°乃至367°Cに於て測定した.其融點以後或る時間均一系を呈し(300°C以内では約2時間均一系である)炭酸ソーダのみ生じ其速度はdx/dt=k(a-x)2なる2分子反應としてよき恒數kを與へる. 340°Cに於て數十分加熱後初めて蓚酸鹽生成し而も聯立併行二次反應即ちk1及びk2を夫々炭酸及び蓚酸鹽の速度恒數とするとd(x+y)/dt=(k1+k2) (a-x-y)2が成立して且つk1及びk2の比が一定である.尚温度を昇げてる此關係が維持せられる.即ち炭酸ソーダ及び蓚酸ソーダの生成反應は連續反應でなくて完全なる併行反應なることを確認した.又k1の温度係數がk2の夫よりも小であるから急熱して高温に達せしめると蓚酸鹽量が大となる.此事實は急熱法利用の一根據である.
2) 360°C以上に於ける蟻酸ソーダの加熱は約50分の後蓚酸鹽及び炭酸鹽の析出によつて完全な異相反應となる.茲で反應速度は初期に於て上昇し,極大に達し,それより再び降下する所謂彎曲點を有するS字型曲線で表されるもので,從来“固體→固體”反應に於ける自觸反應と全く同様に“融態→固體”反應に於ても亦自觸反應の存することを發見した.其の速度はLewisのdx/dt=kxに隨はないで速度上昇部(上方凹部)に於てはFränkelの如くdx/dt=kt2に隨ひ,速度降下部(上方凸部)に於ては, dx/dt=A-B(t∞-t)2に隨ふ事即ち界面に限定されることを見出した.
3) 上記自觸反應(融熊蟻酸ソーダ→固定炭酸ソーダ+蓚酸ソーダ)中炭酸鹽の方は遙に活性が乏しい.
4) 蓚酸鹽生成の自觸反應は初期に於て生成せる活性中心を有する蓚酸鹽分子たる反應核の數によつて殆ど左右され,而も途中の加熱に依つては反應核は殆ど増加しない爲,反應初期に急熱昇温すれば此反應を著しく促進せしめられることを確認した.之が所謂急熱法の利點の根本原理である.

著者関連情報

この記事は最新の被引用情報を取得できません。

© The Chemical Society of Japan
前の記事 次の記事
feedback
Top