日本化學會誌
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新テルペン物質(C10H14),メノゲレンに就て
奥田 治
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1940 年 61 巻 2 号 p. 161-176

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抄録

シトラールを20%硫酸と共に室温に於て振盪したる後蒸溜に依り反應生成物よリテルベン部分を約25%收量にて分離せり.テルペン部分は金屬ソヂウムを加へ反覆精溜を行ひたるに主生成物はシトラールテルペン及パラサイメンにして,其他低沸點部よりアセトン,イソプロピルアルコールを得たる外,新物質1-Methyl-〓2:6-Cyclohexadieneを發見せり.
シトラールテルペンは第三級-第三級半環性二重結合特有のニ卜ロソクロライド呈色反應を示し,唯一の結晶性誘導體として融點114.5~115°の二臭化物を與へ, Pd〓を觸媒とする接觸還元に依り1モルの水素を吸收せしむる時パラメンタンの傍dl-α-フエランドレンを生成する事實を其無水マレイン酸附加物に依りて確認せり.依て其構造はΔ2:4〓:6-p-Menthatrieneにして文獻に記載無き新化合物なり.而してパラサイメンを除くC10H14の分子式を有する最初の物質なり.
シトラールテルペンを20%硫酸と振盪すればパラサイメンへ異性化し,金屬ソヂウムを加へて蒸溜すればアセトンを生成する故にテルペン精製時得たるアセトン,イソプロピルアルコール,メチルシクロヘキサヂエン及パラサイメンは何れも不安定なるシトラールテルペンの變化生成物なり.
シトラールテルペンの性質並構造の判明に依り溯つてシトラールよリテルペンの誘導されたる環化機構はシトロネラールが硫酸の作用を受けたる場合と同じくシトラール,デヒドロイソプレゴール,メントグリセロール,シトラールテルペン,而してパラサイメンの順序を經るものなることを説明し,シトラールテルペンにメノゲレン(Menogerene)の名稱を與へたり.而して斯の如き順序による環化反應は一般鎖状テルペンアルデハイド類の示す一般傾向と考へ得べく,生物化學的見地より甚だ重要なることに言及せリ.

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