日本化學會誌
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無極環状放電による化學的研究水蒸氣の放電(第六報)
大原 英一
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1940 年 61 巻 4 号 p. 359-366

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抄録

水蒸氣流に放電して得た氣體を液態酸素に浸したトラツプに通じる時には,此所に過酸化水素が生成せられることは既に前の諸報に於て述べた.此の放電により得たる氣體が放電管から此のトラツプに達するまでに次の如き諸操作を施して,トラツプに於ける過酸化水素の生成反應に對する夫々の影響を見た.
1) 放電管とトラツプとの間の距離が大となれば過酸化水素の生成量は減じるが,その濃度は殆ど變らない.
2) 放電管とトラツプとの間の距離を200cmにすれば,トラツプを-78°Cに保つても過酸化水素の生成を認めた.即ちトラツプまでの距離が此の程度の長さであればBates, Taylorの反應の如く室温に於ても過酸化水素の生成を認められ,即ちトラツプに達した氣體中には水素原子と酸素分子の存在することを示す.
3) 放電された水蒸氣中の水分を除去すれば,過酸化水素の生成を減じ,永久氣體となる割合を増加する.
4) トラップの前にニッケル線を置く時には,過酸化水素の生成量は非常に減じ,水及び永久氣體となる割合が増加する.
5) 放電管とトラツプとの間にテレツスクガラス又は並ガラスの内挿管を置く時には,内挿管の兩端が鋭利な貝殼面を有する場合には,過酸化水素の生成量は減少し,永久氣體となつてトラップより排出されるものが増加する.此の際内挿管の放電管に近き方の先端は熱せられて温度が上昇する.
6) 内挿管をクロム酸混液で處理する場合には,テレツクスガラス管なれば變化なく,並ガラス管なれぱ過酸化水素の生成量を減じ,永久氣體となり排出されるものが増加する.
7) 放電管とトラツプとの中間の器壁を加熱する時には過酸化水素の生成量を減じ,永久氣體となるものを増加する.
以上の結果より放電を受けた水蒸氣流が-183°Cのトラツプに於て過酸化水素を作る主體は水素原子と酸素分子なることを推論する.

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