日本化學雜誌
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接触反応条件下における「反応中間体」の動的取り扱いによる反応機構の研究
田丸 謙二
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1966 年 87 巻 10 号 p. 1007-1013,A57

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抄録

反応進行中にあらわれる化学種は「あらわれる」というそれだけの理由でその反応の「中間体」と見なすことはできない。その反応が果してその化学種を経由して進むものかどうかを決めるために,反応条件下においてその化学種の挙動を動的に取り扱う一つの方法を提案した。
アルミナによるギ酸の脱水分解反応の場合,ギ酸イオソが触媒表面上に観察される。しかしそのギ酸イオンは「反応申間体」ではないことが,反応条件下で同位体を含む反応物を使用する赤外吸収法による知見から確認された。つまりギ酸が最初アルミナ表面に解離吸着し,ギ酸イオンとプロトンとにわかれるが,分解反応はそのプロトンの方を経由して進むと考えられ,ギ酸イオンの方はまったく反応経路上にないのである。
一方ニッケルによるギ酸の脱水素分解反応では触媒表面のギ酸イオソを経て進むものと考えられていたが,表面ギ酸イオンの濃度と全反応速度との関係からもそれは誤りであり,ギ酸イオソは「反応中間体」よりもむしろかえって触媒表面を被覆して反応を抑制しているものであることが明らかになった。
二重促進鉄触媒によるアンモニア合成反応においては,表面に吸着している「反応中間体」としての「吸着窒素」を反応条件下で速度論的に取り扱い,全反応をそれを構成する「より簡単な反応」にわけてそれぞれを分圧や被覆率の関数として求め,全反応を組み立てることにより反応の構造を解明し,「反応中間体」を決める方法について述べた。
以上三つの典型的接触反応をモデルとして「反応中間体」の確認や反応機構解明の新しい方法について述べ,反応条件下で「反応中間体らしいもの」を動的に取り扱うことが必要であることを強調した。

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