日本化學雜誌
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クロム(VI)によるコバルト(II)-ニトリロポリ酢酸錯体の酸化反応の速度論
大橋 弘三郎大沼 諄山本 勝巳栗村 芳実
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1971 年 92 巻 1 号 p. 51-55

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抄録

酸性溶液中におけるクロム(VI)によるいくつかのコバルト(II)-ニトリロポリ酢酸錯体(Co(II)Y)の酸化反応を25±0.2°C,イオン強度0.1で分光光度法により研究した。
クロム(VI)酸化の全反応は次式であらわされる。
3Co(II)Y+Cr(VI)=3Co(III)Y+Cr(III)
Co(II)-EDTA,Co(II)-CyDTAおよびCo(II)-DTPA錯体のクロム(VI)酸化反応は,酸性錯体(Co11HY)および通常錯体(Co11Y)を含む二つの反応径路を径て進行すると考えられ,速度式は次式のようにあらわされることがわかった。
d[Co(III)Y]/dt=kp[Co11HY][HCrO4-][H+]+kn[Co11Y][HCrO4-][H+]
Co(II)-EDTA,Co(II)-CyDTAおよびCo(II)-DTPA系の速度定数knとしてそれぞれ1.5×103, 2.4×102, 2.3×103(l•mol-2•sec-1), kpとしてそれぞれ2.6×103, 1.0×103, 6.5×103(l2•mol-2•sec-1)が得られた。一方, Co(II)-HEDTAおよびCo(II)-EDDA錯体のクロム(VI)酸化は,水素イオンに関して一次ならびに0次の二つの反応径路が推定された。これらの系の速度式は,
d[Co(II)Y]/dt=kn[Co11Y][HCrO4-][H+]+kn'[Co11Y][HCrO4-]
で表わされる。Co(II)-HEDTAおよびCo(II)-EDDAに対するknの値としてそれぞれ5.0×103, 6.0×104(l2•mol-2•sec-1), kn'の値としてそれぞれ3.3×10-1, 6.5×10-1(l•mol-1•sec-1)が得られた。
コバルト(II)錯体の性質と反応性の関係を検討した結果,Co(II)-DTPA錯体を除いて配位子の立体障害が小さく,また錯体の負電荷が小さいほど反応性に富んでいること, Co(II)-EDTA, Co(II)-CyDTAおよびCo(II)-DTPA錯体では酸性錯体の反応性は通常錯体のそれより大きいことかわかった。Co(II)-DTPA錯体が比較的大きな反応性を有していることから,配位している配位子中の遊離のカルボキシル基が,クロム(VI)酸化を促進する役割を果たしているものと考えた。

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