1971 年 92 巻 8 号 p. 670-676
15種類のメタ二置換べンゼンについて,その隣接3個の水素原子の面外振動と環面外変形振動の強度の和を特性強度とする考え方の正当性と限界について検討した。この種の分子の上記二つの振動の強度比が共通な置換基をもつ一置換体のそれにほとんど等しいことから,二つの型の化合物における基準振動形の構成上の類似点を指摘した。つぎに,メタ二置換体の構造から特異的に生じる問題について考察した。すなわち,置換基OH,OCH3,CHOおよびCOCH3をもつ化合物に見られるCH面外変角振動の吸収帯の分裂を置換基の立体配座上の観点から論じた。さらに,メタ二置換体の二つの振動の強度和を一置換体のそれに対比させつつ検討し,その強度和の基底になっている振動座標の性格について考察した。その結果,この場合の振動座標は,一般には化合物によって変わりうる孤立水素原子の振動の寄与を含んでいるが,なおかなり広い範囲でその影響は小さく,強度和に特性強度としての性格を求めうるとの結論を得た。最後に,振動に関与する原子の数を考慮すれば,一置換体および共通な置換基をもつメタ二置換体の強度和がほぼ等しい値を示す事実の重要性を指摘した。
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