日本化学会誌(化学と工業化学)
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リン酸-水素カルシウムの加熱減量値の非化学量論性
松野 清一
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1976 年 1976 巻 12 号 p. 1838-1844

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抄録

湿式法で合成したリン酸-水素カルシウムの1000°Cまでの加熱減量値は,理論値(6.61%)と比較してつねに約0,4~1.7%程度多い値を呈することが認められ,この原因について検討した。
100℃合成では,(1/30)mol,H2Oの結晶水を含む試料が得られやすく,この組成以下のものは得られないところから,CaHPO4,(1/30)0がもっとも無水に近い組成であり,(1/30)mol,H2Oは構造安定水として含まれているものと考えられる。
加熱減量値やX線回折結果から,合成温度85℃付近を境にして,傾向が若干異なることが認められ,85℃以上の範囲では(1/30)~(3/30)mol,H2Cで,それ以下では(2/30)~(4/30)mol,H20の結合水を含む。
このように湿式合成法(常圧下)では,完全なCaHPO4の無水和物を合成することはできず,加熱減量値の非化学量論性は,CaHPO4構造中に含まれるこのような結合水に基づくものであり,CaHPO4の構造は主として(1/30)および(1/60),または(1/120)mol,H20を基本とするくり返し構造であることが推定される。
X線分析において最強回折線が単一(d=3.37Å,(020))の試料と二重(d=3.37Å,(020)とd=3,35Å,(110),(220))のものとが得られ,二重回折線の試料を粉砕すると回折線は単一(d=3.37Å)となり,強度はほぼ2倍になる。これは粉砕にさいして結晶が主として(020)面にそってスリップするためであり,スリップの原因は,構造中に段階的に含まれる結合水と関係あるものと考えられる。

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