1979 年 1979 巻 6 号 p. 690-696
種々の有機液体中で,銀セッケンを加熱(50~150℃)すると,銀オルガノゾルあるいは銀鏡を生成することを見いだし,これらの反応機構について考察した。銀ゾルは吸収スペクトル,電子顕微鏡および電子回折などを用いて検討した。炭素数の異なる種々の結晶性銀セッケンを合成し,これを種々の植物油中に機械的に分散して得られるサスペンシ選ンを加熱すると,透明度を増すとともに黄褐色になり,銀ゾルを生成した。このとき油のヨウ素価が高いほど,ゾルの生成温度は低くなり,かつ安定度も増した。芳香族炭化水素や精製流動パラフィンの中では,銀セッケンは130℃以下でほとんど変化を示さないが,200℃で空気を通して酸化して,-00H,-OHおよびCO原子団を含む流動パラフィン中では,130℃付近で安定なゾルが得られた。直鎖飽和アルコール中では植物油の場合と同様に銀ゾルを生成するが,これに引きつづいてガラスまたは極性固体表面に銀鏡を生成し,溶液中では凝集沈殿が起こる。ゾル状態の持続時間は銀セヅケンの炭素数とともに増大する。直鎖飽和脂肪酸中では,ゾルの生成も銀鏡反応も認められなかったが,オレイン酸のような炭素鎖の長い不飽和脂肪酸中では比較的安定なゾルが生成された。
上記の実験事実から,(1)銀オルガノゾルは極性媒質中で逆ミセルの内部で生成され,(2)比較的長い炭素鎖をもったカルボン酸ラジカルや媒質の極性分子によって安定化されるものと考えられる。
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