テトラナクチン-イオン複合体形成の熱力学的パラメーターを,赤外またはNMRスペクトルの解析およびマイクロカロリメーターによる直接熱測定などにより算出した。複合体形成にともなう配座エネルギー変化にイオンの脱溶媒和エネルギーの寄与を加えることにより,基本的には複合体形成エンタルピーが説明されることを示した。各イオン複合体によるエンタルピー変化の順序が,自由エネルギー変化の順序に一致していることから,テトラナクチンのイオン選択性にエンタルピーの寄与の大なることが明らかとなった。Na+のような小さいイオンや,Ba2+のような二価のイオンでは,K+やRb+にくらべて相対的に脱溶媒和の寄与が大になりそれにともなうエントロピーの正への寄与も相対的に大きくなることが理解された。NH4+では結合様式が他のイオンと異なることも関係して,複合体形成に対しエンタルピーの寄与がより大であった。テトラナクチンの配座エネルギーとイオンの脱溶媒和エネルギーが同程度の値をもつことから,テトラナクチンのイオン選択性は,基本的にはこの両者により決定されることが結論される。
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