日本化学会誌(化学と工業化学)
Online ISSN : 2185-0925
Print ISSN : 0369-4577
酵素の機能に学ぶ消臭繊維の開発
白井 汪芳
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1994 年 1994 巻 1 号 p. 1-11

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抄録

鉄,コバルトフタロシア屯ン誘導体が酵素類似の機構で,悪臭成分と反応することを利用して,バイオミメティックな消臭機能を持つ消臭繊維を開発した.生体内の一連の酸化酵素が大気や食物を通じて生体内に入る種々の毒物を酸化し,解毒することに注目し,まず,これらの酵素の活性中心であるヘマトポルフィリンIXと類似の構造を持っ,Fe(III),Co(II)フタロシアニンのカルボン酸誘導体とそれらのポリマーを合成したこれらの錯体と高分子錯体によるoxidase,catalase,peroxidase,oxygenaseおよびその高分子系が,酵素と類似した触媒作用を示し,さらに天然物より優れた触媒能を有することを見いだした.
次に,これらのフタロシアニン誘導体を各種高分子材料に担持し,複合化して種々の消臭素材を開発した.特に,多孔質,多非晶質レーヨンに担持したフタロシアニン誘導体により,チオール,アミンなどの悪臭成分の除去機構を速度論的に解析し,酵素類似の反応機構で除去できることを明らかにした.
さらに,この消臭繊維を用い,寝たきり病人の病室,トイレ,下水処理場などの現場で分析試験を併用し,その効果の詳細な評価,検討を行った.その結果,悪臭の原因となる主成分はppbレベルのチオールなどであり,この消臭繊維により,空気中のこれら硫黄化合物を0.1ppb以下に除去できることを明らかにした.また,耐久性,耐洗濯性など実用的性能も優れていることがわかった.したがって,フタロシアニンを担持したレーヨン,ウール,綿などを工業化し,綿不織布,織物などに加工し,布団,カーペットなど多彩な消臭能を持つ商品開発を行った.

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