日本化学会誌(化学と工業化学)
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ヒドロキシアパタイトの非化学量論的溶解に対する硫酸イオンと硫酸ドデシルイオンの影響
嶋林 三郎松本 美穂
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1994 年 1994 巻 1 号 p. 26-30

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抄録

2種のヒドロキシアパタイト(HAP,2g/dl)を種々の濃度の硫酸ドデシルナトリウム(SDS),硫酸ナトリウム(Na2SO4),塩化ナトリウム(NaCl)の水溶液に懸濁させ,溶解平衡,吸着平衡,イオン交換平衡に達したのちに母液中のリン酸イオン濃度[Pi]とカルシウムイオン濃度[Ca2+]とを測定して,HAPの見かけ上非化学量論的な溶解について検討した.[Pi]を増大させる添加電解質の序列はNaC1<Na2SO4<SDSとなった.SO42-とPO43-とはイオンのサイズが似ている.そのために同形置換機構に基づくイオン交換作用によってSO42-がHAPへ取り込まれやすくなるので,NaCl添加のときよりもNa2SO4添加のときの方が[Pi]が大になると結論した.硫酸ドデシルイオン(DS-)の場合には末端の親水基(-SO4-)が同形置換機構(すなわちイオン交換)によってHAPへ吸着されるとともに,DS-の炭化水素間の疎水性相互作用と協同効果によってもDS-のHAPへの吸着が促進される.そのためHAPのDS-吸着量はSO42-の吸着量よりも大になると考えられた.HAP表面へのDS-の吸着量が大になるとHAP表面の負電荷も過剰となるので,それを緩和するためにHAP表面からのPiイオソの放出がSO42-の場合よりもさらに促進された.一方,[Ca2+]を増大させる添加電解質の序列はSDSの臨界ミセル濃度(cmc)以下においてはSDS<Na2SO4<NaClとなり上述の[Pi]を増大させる序列とは逆転した.これはHAPの溶解度積が一定に保たれるようにPiとCa2+とが溶出するためである.しかしcmc以上ではミセルがCa2+を捕捉するので,SDS添加濃度と共にCa2+の溶出全濃度[Ca2+]は大となった.

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