抄録
電量ヨウ素滴定法により三酸化二ヒ素の定量を行い, ヒ素 (斑) 標準溶液の調製方法と保存・安定性について検討した. 大気中または不活性雰囲気中, 三酸化二ヒ素標準物質を2mol dm-3水酸化ナトリウム溶液に溶解したときの純度測定値は認証値より約0.1%低かった. しかし, 除酸素した同濃度の水酸化ナトリウム溶液で溶解すると, 得られた純度は認証値に近い値になった. 一方, 2mol dm-3炭酸ナトリウム溶液に溶解した場合には, 認証値にほぼ一致した純度値と十分な精度が得られた. 純度低下の主因は高い塩基性度と溶存酸素によるヒ素 (III) の酸化であり, 三酸化二ヒ素の溶解には炭酸ナトリウム溶液を使用するべきである. テフロンと高密度ポリエチレン容器に2か月間保存した1000μgcm-3ヒ素 (III) の2mol dm-3水酸化ナトリウム溶液中では数%, 1μgcm-3ヒ素 (III) 溶液中では20%以上のヒ素 (III) 濃度の減少がみられた. 2mol dm-3炭酸ナトリウム溶液およびpH約12.5に調整した水酸化ナトリウム溶液中では, いずれのヒ素 (III) 濃度でも少なくともそれぞれ2か月および1か月間は安定であり, 塩基性溶液中ヒ素 (III) の空気酸化の反麻速度は溶液のpHに大きく依存することがわかった.