抄録
目的:2010年に上山と八尾らが,胃底腺への分化を示す胃がんの新しい組織亜型として胃底腺型胃癌を提唱し,以降報告例が相次いでいる.当センター人間ドックで経験した胃底腺型胃癌について臨床病理学的に検討を行った.
対象:2012年1月から2014年12月までに,当センター人間ドック上部内視鏡で胃底腺型胃癌と診断された5例を対象とした.
方法:Helicobacter pylori(H.pylori)感染の有無,内視鏡所見,病理組織学的所見などの検討を行った.
結果:症例は全例男性であり,平均年齢は55.6(46~61)歳であった.全例H.pylori感染陰性で,1例は除菌療法後だった.発生部位はU領域4例,M領域1例であった.肉眼型は4例0-Ⅱa,1例0-Ⅱa+Ⅱcであった.腫瘍径は全例10mm以下であった.治療は5例すべてに内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を行った.病理組織所見は全例,胃底腺型低異型度癌で,粘膜下層への浸潤を認めた.脈管侵襲は全例陰性,切除断端も全例陰性であった.免疫組織化学的には全例Pepsinogen-Ⅰ陽性,H+/K+-ATPase陽性,MUC-6陽性であった.MUC-5ACとMUC-2は陰性であった.
結論:今後,H.pylori感染率の低下に伴い,胃底腺型胃癌の増加の可能性が考えられる.萎縮のない胃粘膜でも本症の特徴を念頭に置き,注意深く観察することが重要である.