人間ドック (Ningen Dock)
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巻頭言
総説
  • ―人間ドックで検査することの意義―
    戸田 晶子
    2023 年 38 巻 4 号 p. 562-570
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

     アルブミン尿は血管内皮細胞障害,いわゆる動脈硬化のマーカーとして心血管系疾患の危険因子であることが知られている.人間ドックは未病の病態を早期に発見し,将来の疾患を予防することが重要な責務である.したがってアルブミン尿を診断することにより,動脈硬化の進行予防のために,受診者に対して生活習慣改善を推奨し,また高血圧,脂質異常症などの動脈硬化の危険因子への治療につなげることが重要な課題と考えられる.現在の日本の保険診療ではアルブミン尿は糖尿病患者にしか測定することができないが,自由診療である人間ドックではその測定が可能である.また人間ドックの尿検体は,絶飲食による濃縮尿のために尿蛋白定性が偽陽性となることが多いため,その点でも尿定性ではなく尿定量が推奨される.そこで,人間ドックにおける尿定量によるアルブミン尿診断の意義を中心に概説する.

原著
  • 中居 賢司, 村上 晶彦, 神谷 亮一, 石田 由紀, 菅原 将人, 吉田 直人, 木村 琢巳, 房崎 哲也, 森野 禎浩, 狩野 敦
    2023 年 38 巻 4 号 p. 571-579
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    目的:複数回の人間ドック健診で検出された異常Q波を伴う新規心筋梗塞(myocardial infarction: MI)および心臓急死例の発症前のリスク要因について検証した.

    対象と方法:対象は,2018年4月より2021年3月の期間中,人間ドック健診受診者10,487例(男性7,242例,女性3,245例)の心電図(ECG)で陰性T波を伴う異常Q波が記録された78例中,過去3年間の時系列記録より正常波形が確認された新規MI 11例(男性10例,女性1例,平均62歳)と心臓急死1例である.発症前に心電図非同期胸部CT(胸部CT)が撮像されていた新規MI 4例(男性3名,女性1名,平均69歳)と心臓急死1例については,冠動脈疾患発症前のリスク要因を検討した.

    結果:MI発症前では,治療歴(高血圧7例,糖尿病7例),BMI 24.7±2.6,収縮期血圧146±10mmHg,LDL-C 143±35mg/dL,2合以上の飲酒歴(1/11),吹田予測指標(Suita score)は55.5±6.5,10年間の冠動脈疾患発症確率は8.1±4.5であった.MI発症前に胸部CTを撮像していた4例では,心電図異常Q波より推定されるMI部位と関連する冠動脈領域に輝度増加(石灰化)と大動脈領域の一部にも石灰化を認めた.MI発症前の状況を問診し得た2名では,発症前に不規則な食生活や就業上のストレスがあった.心臓急死例ではLDL-C 188mg/dLと高値で未治療,前年度の胸部CTで主要冠動脈3枝に中等度の石灰化を認めた.

    結論:MIおよび急死例では,高血圧,糖尿病,LDL-Cが高値(一部,未治療)であり,胸部CTによる冠動脈や大動脈などの石灰化病変の存在は高リスクと考えられた.

  • ―アンケート調査から―
    園尾 広志, 福島 久美, 植松 恵, 平井 美由紀, 高橋 安希, 植村 美保, 松下 美加, 槇山 久美, 武 弘典, 平松 典子, 大 ...
    2023 年 38 巻 4 号 p. 580-588
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    目的:ミダゾラム(midazolam: MDZ)を用いた上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy: EGD)の鎮静度をRichmond Agitation-Sedation Scale(RASS)で評価し,アンケートで苦痛と満足度を調査することにより至適鎮静度を明らかにする.

    方法:対象は半年間に鎮静EGDを施行した336例.MDZ 2mgの静脈投与を基本(体重80kg以上は2.5mg)とした.投与1分後にRASSで鎮静度を判定し検査を開始,終了後に拮抗剤を投与し,ふらつきの有無を確認し,アンケートで苦痛と満足度を調査した.

    結果:RASSスコア別の苦痛,不満足,ふらつきの割合(%)はRASS 0:苦痛47.5,不満足33.1,ふらつき2.5,RASS -1:苦痛37.6,不満足25.6,ふらつき7.5,RASS -2:苦痛29.6,不満足16.7,ふらつき11.1,RASS -3:苦痛13.6,不満足9.1,ふらつき13.6,RASS -4:苦痛11.1,不満足11.1,ふらつき33.3であった.鎮静が深いほど苦痛,不満足の割合が低下したが,苦痛はRASS -3以深で10%台となり横ばいになった.鎮静が深いほどふらつきの割合が増加した.

    結論:苦痛,不満足,ふらつきの割合がいずれも10%程度のRASS -3が至適鎮静度と考えられたが,鎮静剤に対する効果と反応は個人差が大きく,健診EGDでは過剰な鎮静にならないように個別に至適鎮静度を判断することが必要である.

  • 山本 あかね, 長谷部 靖子, 尾上 秀彦, 松木 直子, 渡邉 早苗, 八木 完
    2023 年 38 巻 4 号 p. 589-597
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    目的:腹部超音波検診による膵がん早期発見には,膵がん高リスク所見である膵嚢胞性病変や主膵管拡張を確実に拾い上げることが重要である.自施設での超音波検診の現状把握と精検結果に基づいた超音波検診画像を振り返ることにより今後の膵がん超音波検診の課題を検討した.

    方法:2016年4月から2021年3月に当センターにて実施した腹部超音波検査件数のべ33,113件の実質受診者15,784名(男性9,198名,女性6,586名),平均年齢48.4±9.7歳を対象とし,自施設検査レポート,精検結果について後ろ向きに調査した.

    結果:5年間で膵病変として指摘した症例は389名(有所見率2.46%)であり,初回指摘時の検診所見別要精検者数(率)は主膵管拡張111名(0.70%),膵充実性病変25名(0.16%),膵嚢胞性病変167名(1.06%),その他10名(0.06%)であった.発見膵がんは4名,がん発見率は0.025%,陽性反応的中度は1.299%であった.膵がんはStage IA~IIAであり,検診所見は全症例で主膵管拡張を認め,膵充実性病変が2名であった.このうちの1名は逐年受診者で精査の結果異常なしと判断されたが,2年後に膵がんと診断された.精検受診した膵嚢胞性病変136名のうち,膵管内乳頭粘液性腫瘍(intraductal papillary mucinous neoplasm: IPMN)が58名(42.6%),膵嚢胞が49名(36.0%)であった.

    結論:今回発見できた比較的早期の膵がんの超音波所見は,膵がん高リスク所見である主膵管拡張と充実性病変であった.逐年受診者では精査で異常なしの判定であっても,継続して所見が認められる場合には再度精査を勧めることも必要である.

  • 松尾 史朗, 野田 吉和, 横山 剛義, 本間 智美, 大眉 寿々子, 鈴木 裕子, 中安 邦夫
    2023 年 38 巻 4 号 p. 598-605
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/30
    ジャーナル フリー

    目的:完全左脚ブロック(complete left bundle branch block: CLBBB)は器質的心疾患を背景に持つことが多く,予後不良な心電図と考えられてきた.しかし,近年,若年者のCLBBBに限っては心疾患との関連が少なく予後良好なことが指摘されている.我が国の健康診断受診者でも同様の傾向が確認されるかを検証した.

    方法:2021年度に心電図検査を受けた41,303名を対象として,CLBBBの有病率,心疾患合併率を年齢階級別に調査した.また,CLBBBの発症年齢を男女別,基礎心疾患の有無別に調査した.

    結果:CLBBBは61名(男性40名,女性21名)に認められた.CLBBBの有病率は0.15%(男性0.18%,女性0.11%)であった.有病率は年齢とともに上昇した.心疾患の合併は61名中17名であり(27.9%),従来の報告より低値であった.女性では60歳未満に心疾患の合併は認められず,60代以降で年齢の増加とともに合併率の上昇が確認された.男性では,心疾患の合併は40代から認められ,年齢と合併率との間に一定の傾向は認められなかった.CLBBBの発症年齢に性差はなかった.但し,基礎心疾患を有するCLBBBに対象を絞ると,発症年齢は男性42(41~54)歳,女性76(74~79)歳であり,有意差が認められた.

    結論:健康診断受診者のCLBBBでは,心疾患合併率は若年者に低く高齢者に高いと一概には言えない.心疾患合併率が年齢とともに高くなる傾向は女性にのみ認められ,男性では認められなかった.

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