2019 年 33 巻 5 号 p. 708-713
目的:当施設における胃がん検診において,胃内視鏡検査に比べて胃X線検査後のヘリコバクター・ピロリ(以下,HP)感染胃炎の除菌施行率が低い要因を検討するために,胃がん検診におけるHP感染胃炎の診断精度と検査施行後のHP除菌率を両検査で比較した.本稿では,この現状の評価をもとに,胃X線検査後の除菌治療における課題を明らかにすることを目的とする.
対象と方法:当施設で胃がん検診を受けたすべての受診者に対し,血清抗体検査の有無や除菌歴などを問診した.除菌施行率の推移は,X線・内視鏡の両検査で萎縮性胃炎と診断されもののうち,過去5年間でどちらか一方の検査しか受けなかった受診者を対象とした.胃X線検査の診断精度の評価は,2015年度に胃内視鏡検査を受けた1,320例のうち過去3年以内に胃X線検査を受け,HP血清抗体価の検査結果がなされ,しかも除菌治療がなされていない238人(男性153人,女性85人)を対象として,HP感染胃炎の診断に関して診断精度の指標を胃内視鏡検査と比較することで評価した.
結果:胃X線検査におけるHP感染胃炎の陽性反応的中度は69.6%で,胃内視鏡検査では62.0%と差がなかったが,検査施行後の除菌施行率はX線検査では約20%で,内視鏡検査では約80%であった.
結論:HP感染胃炎の診断精度は,X線と内視鏡検査との間に有意差はなかった.X線検査後のHP除菌施行率の有意な低さは,現行の医療保険制度の要件によるところが大きいと考えられた.