2024 年 38 巻 5 号 p. 689-693
57歳男性.当院人間ドックを受診,経鼻の上部消化管内視鏡検査(esophagogastroduodenoscopy: EGD)で胃体下部大彎後壁に早期胃がんIIcを疑う10mm大の粘膜不整を認め,組織生検にて高分化型管状腺癌tub1であった.内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection: ESD)目的にて国立がん研究センター東病院(以下がんセンター)へ紹介.がんセンター病理部でも当院病理プレパラートを確認しほぼ同様の分化型管状腺癌tub1+tub2であった.その際のEGDでは,当院での指摘部位に同じく不整な白色領域を認め生検するもがんは検出されず,ひとかきがんの可能性が考えられ経過観察となった.がんセンターでの3ヵ月後のEGDでも前回と同様に生検は陰性で悪性を疑う所見は認めず,最終的にひとかきがんの診断となり,今後は1年毎の定期検査予定となった.治療前生検で消失したとされるがんを「生検消失がん」と呼び消化管での症例報告は散見される.臨床の現場では「生検消失がん」は稀少ではないが,今回人間ドック経鼻内視鏡によるスクリーニングで「生検消失がん」を経験したので若干の文献的考察を含めて報告した.