抄録
目的:脈波伝播速度(pulse wave velocity:PWV)は動脈硬化を評価する非侵襲的検査法の一つであり,近年PWVを自動測定する装置が開発され多くの施設にて計測されている.このPWVを強く規定している因子は年齢と血圧といわれているが,経年的にPWVの推移を観察し,影響する因子を解析した報告はまだ少ない.今回は継続的に検査を受けた受診者に注目し,その変化と他の因子の変化について検討した.方法と結果:平成15,16年度に2回連続でPWV検査を受けた人間ドック受診者1,642名のうち内科的治療を受けていない1,170名を対象とし,体重,body mass index(BMI),血圧,体脂肪率,総コレステロール(TCH),中性脂肪(TG), LDLコレステロール(LDL-c), HDLコレステロール(HDL-c),空腹時血糖(fasting blood sugar:FPG), PWVを測定し,それらの因子について比較検討した.PWVが低下した群を改善群,上昇した群を悪化群として定義した.改善群は,555名(47.4%)で,体重,BMI,体脂肪率,血圧, TCHの改善を伴っていた. PWV悪化に寄与する独立した因子は,女性である事,年齢,体脂肪率の上昇,血圧の上昇,FPGの増加であった.年齢と共に増加すると考えられていたPWVは,肥満が改善された事により,血圧低下を介してPWVは低下した.結論:PWVは動脈硬化の程度を数値化しており,しかも肥満の改善に伴ってその数値が改善する事より,人間ドック受診者に対して生活指導をする際に有効な指標と考えられる.