抄録
目的:欧米諸国では海外渡航者自身のワクチン接種への関心度が高い上に関連した多くの研究もなされているが我が国では1,700万人もの海外渡航者を抱えているにも関わらずその研究がきわめて少なく,ワクチン接種の適切な対象選別がほとんど行われていない現状である.今回我々は海外渡航前健康診断を受診した者を対象に,A型肝炎およびB型肝炎抗体陽性率とワクチン接種歴を調査し,海外渡航者に対するワクチン接種のあり方について考察した.方法:2005年10月より2006年3月までの間に海外渡航前健康診断を受診し,A型肝炎抗体(HA抗体)およびB型肝炎抗体(HBs抗体)の測定を行った428名の日本人渡航者を対象として抗体保有状況を解析した.また過去のワクチン接種歴も可能な限り聴取して,ワクチン接種回数による抗体獲得状況も解析した.結果:A型肝炎ワクチン未接種者293名のうちHA抗体陽性者は30名(10.2%)で,60歳代以上では80%であったが50歳代以下では25%以下であった.一方B型肝炎ワクチン未接種者308名のうちHBs抗体陽性者は19名(6.2%)であった.結論:これらの結果はA型肝炎およびB型肝炎ウイルスの浸淫地域へ渡航する者に対するワクチン接種の必要性を促すものとなる.一方で年齢,ワクチン接種歴,海外在住歴などを考慮に入れ,必要に応じて抗体価の測定も行うことにより,ワクチン接種の適切な対象選別が可能となると考えられた.