抄録
癌細胞が無制限に増殖する機構を明らかにするためDNA代謝の面から研究を進めた。ピリミジン代謝にかんし癌細胞(吉田肉腫)はde novo経路よりむしろsalvage経路の方の活性が高いのにたいして分裂の盛んな正常組織である再生肝では両方の経路の活性が高かつた。しかしこのような現象は癌細胞に特有なことではなく正常組織である骨髄細胞でもde novoよりsalvage経路の方が盛んであることがわかつた。癌細胞に特有な現象はsalvage経路の酵素(チミジンキナーゼ)にみられた。この酵素は癌細胞では電気泳動またはDEAE celluloseでも2つの画分に分けられるが正常組織ではいずれの組織でも1つの画分しかみいだされない。吉田肉腫からこの酵素の2種類の画分(peak I, peak II)を精製しpeak Iを約1470倍にpeak IIを約25倍に精製した。これらの精製酵素についてその性質を比較したところ分子量,チジンにたいするKmの間に差がみられたがATPにたいするKm,至適pH,リン酸供与体および受容体また各種阻害物質の影響などには差はみられなかつた。またdUMP kinaseの活性にも癌を正常組織の間に差がみられた。この酵素はdUMPをdUDPにリン酸化する酵素であるが正常組織では非常に高値を示すが癌細胞ではほとんどその活性はみられなかつた。また種々のDNA合成にかんする酵素が細胞内で膜に結合し機能的ユニットとして存在するのではないかと思われる結果をえられわれわれはこれを「DNA合成セット」と呼びこのセットの中に癌と正常組織の間の相違が存在するのではないかと考え検策をすすめている。