抄録
われわれはすでに, 放射線影響研究所(長崎)における寿命調査拡大集団と腫瘍登録を用いて, 被爆者皮膚癌発生頻度と推定被曝線量との間に統計的に有意な相関があることを明らかにした。また本シリーズの第3報では, 長崎大学資料センターに収録されている66,276人の直接被爆者資料をもとに, 長崎市内および周辺地区の31医療施設から収集した被爆者皮膚癌140症例について検討し, 皮膚癌発生頻度と被爆距離との間で統計的に高い相関を認め, この相関は男女別に分けた場合も同様であつた。本報告では, 原爆資料センターの資料を用いて, 原爆被爆から今日に至るまでの皮膚癌発生率の年次推移を検討した。その結果, 皮膚癌発生症例数は1962年以降増えつづけ, とくに1975年頃を境にして, 2.5km未満被爆者からの皮膚癌発生率の増加が3.0km以上被爆者のそれに比べて有意に高くなつていることが判明した。