1993 年 55 巻 3 号 p. 445-449
72歳の男子の左側腹部に生じた付属器腫瘍の一例を報告した。5∼6年前に側腹部に黒色の丘疹があるのを気づいたが放置していたところ, 徐々に増大した。初診時には小指頭大で有茎性の腫瘤で黒色∼黒褐色を呈し, 表面に血痂を伴っていた。組織学的に表皮から真皮中層にわたり, いくつかの小葉からなる大きな腫瘍巣がみられた。また, 腫瘍巣の部が表皮と連続している部位が観察された。小葉内には, 小型のcuboidalな細胞からなる細胞巣, 明るい細胞質をもった細胞膜の明瞭な大型の細胞から構成されている細胞巣, および, 管腔形成のみられる部位が存在した。また断頭分泌様の部位もみられ, さらに大小不同, 核分裂像を示す部位も一部に認められた。これらの所見から, 本腫瘍の起源として表皮内汗管, 真皮内汗管および汗腺に分化するエクリン汗器官原基が考えられた。つまり, 多方面への分化を示したエクリン系の腫瘍であり, poroid hidradenomaに一致するが, 一部に悪性像を認める腫瘍と診断した。