1993 年 55 巻 5 号 p. 900-905
アトピー性皮膚炎の患者および家族における精神的問題は, 疾患の発症, 慢性化において直接的あるいは間接的に関わりが深く, 一般診療上心身医学的配慮を要することが少なくない。今回性格特性が皮膚症状の経過に大きく影響したと思われる小児アトピー性皮膚炎の1例を経験した。患者は9歳女子, 乳児期より湿疹性病変が出没し, 小学校入学後より場面緘黙が出現した。皮膚症状を家族からも隠蔽し, 治療を拒否するうち左下腿湿疹病変部に感染性潰瘍を併発したため当科受診し, 抗生剤の全身投与, 外用療法により潰瘍は瘢痕治癒した。湿疹性病変については, 病勢と精神状態とで相互に影響しあうため, 家族も含めたbrief psychotherapyを併用しつつ経過観察中である。アトピー性皮膚炎の治療において, 発症早期より心身医学的アプローチを心がけることは, 病像の慢性化·複雑化を防ぐうえでも重要であると思われた。