抄録
34 歳,女性。元来,アトピー性皮膚炎のため近医で加療されていた。不明熱,視野欠損,両手掌,足底に紫斑,血疱を認め,当科を受診した。足底の血疱穿刺液および血液培養にて Methicillin-sensitive Staphylococcus aureus (MSSA)を検出し,経胸壁超音波検査では僧房弁に疣贅と思われる所見と僧帽弁逆流を認め,感染性心内膜炎と診断した。弁破壊に伴う僧帽弁逆流と疣贅による脳梗塞などを含めた遠隔病巣があることから,手術目的に転院し,僧房弁置換術が施行された。アトピー性皮膚炎に感染性心内膜炎を併発した報告例は本邦では約 10 例認めるのみである。そのアトピー性皮膚炎患者の多くは重症型で,ほとんどの症例で起炎菌として黄色ブドウ球菌が検出されていることから,感染経路としてはバリア機能の低下した皮膚から細菌が侵入したと考えられている。黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎は,疣贅による弁破壊や全身諸臓器に転移性病巣を作りやすいといわれており,致死的となることが多い。このような重篤な合併症を予防するためにも,アトピー性皮膚炎に対して適切な治療を行い,皮膚におけるバリア機能を保つことが,重要と思われる。