2019 年 81 巻 5 号 p. 413-417
Annulohypoxylon sp. による趾間黒癬(右第 2・3・4 趾間),足爪黒癬(右第 4 趾)の 93 歳,男性例を報告する。臨床像は炎症のない点状,線状,斑状の黒褐色斑で,Hortaea werneckii による報告例よりも黒色調が強かった。再発時の爪甲病変のダーマスコピーでは淡褐色の線状色素斑がモザイク状にみられた。趾間と爪甲の直接鏡検で多数の黒褐色菌糸を認めた。趾間鱗屑の培養では,コロニーは継代の度に黒色調から白色絨毛状になった。スライドカルチャーでは,菌糸のみで胞子,分生子の発育はなかった。Hortaea werneckii や,ベネズエラ固有の Stenella araguata は否定された。培養検体からの ITS∼D1/D2 領域の遺伝子解析により,Annulohypoxylon sp. と同定された。植物腐敗菌の菌種のヒトへの感染例はない。明らかに黒癬の臨床像を呈し,Annulohypoxylon sp. のみが分離培養できたのでコンタミネーションは否定した。居住環境からの感染と推察された。自験例は Annulohypoxylon sp. による黒癬の世界第 1 例である。 抗真菌剤の外用療法では趾間,爪甲ともに再燃がみられたので,この菌種による黒癬は難治な疾患として対応すべき可能性が示唆された。