症例 : 37 歳,女性
主訴 : 乳頭・乳輪部の瘙痒,落屑,亀裂と授乳時痛
現病歴 : 最近になり乳頭・乳輪部皮膚に瘙痒,落屑や亀裂を認めるようになり,授乳時の痛みも出現してきた。
家族歴 : 児の口腔内に白苔
現症 : 両側乳房の乳頭・乳輪部皮膚に瘙痒を伴う落屑性変化と亀裂を認め(図1,2),授乳に際し強い痛みを覚えるとのことであった。
臨床検査所見 : KOH 法により,少数の真菌要素を認めた。
診断および治療 : 同行した授乳中の児に鵞口瘡(図 3 : KOH 法でカンジダ性真菌要素多数)を認めたため,授乳行為を介した母児間カンジダ感染例と考え乳頭カンジダ症と診断した。母児共に,ミコナゾールゲル経口用 2%の 1 日数回外用を約 2 週間行い治癒した。
症例 :68 歳,女性
主訴 : 両側頚部の黄白色丘疹
既往歴 : 27 歳時に急性腎炎,55 歳時に IgA 腎症の疑いで 5 年間の治療歴があった。
現病歴 : 初診の 4,5 年前に右側頚部に黄白色丘疹が多発しているのに気付いた。その後,同様の丘疹が左側頚部にも出現した。精査のため,近医より当科に紹介され,受診した。
初診時現症 : 両側頚部から鎖骨上部にかけて,直径約 2 mm で軟らかい黄白色丘疹が多発していた。丘疹は一部融合し,局面を呈していた(図 1)。同様の皮疹は左肘窩にもみられた。なお,皮疹は自覚症状を伴わなかった。
病理組織学的所見 : HE 染色では,表皮はやや菲薄化し,基底層のメラニンは増加していた。真皮網状層浅層の血管周囲に炎症性細胞が軽度浸潤していた(図 2 a)。Elastica van Gieson 染色では,真皮乳頭層の弾性線維は消失し,真皮中層から下層に断片化した弾性線維を認めた(図 2 b)。Kossa 染色では石灰沈着を認めなかった。
診断 : Pseudoxanthoma elasticum-like papillary dermal elastolysis
症例 1 : 79 歳,女性。双極性障害あり。以前から皮膚乾燥時に食用油を外用していた。3 カ月前から痒みを伴う紅斑が出現し,当科を受診した。常用していた食用油に代わりステロイド軟膏を外用したところ改善した。症例 2 : 39 歳,女性。妄想性障害あり。小児期からアトピー性皮膚炎があるもステロイド忌避のため 30 歳頃から食用油を外用していた。33 歳時,当科に入院し食用油に代えて保湿剤等で一時軽快したが,その後食用油外用を自己再開し紅皮症化した。その後家庭内暴力行為のため精神科に医療保護入院となった。しかし抗精神病薬の内服やステロイド,保湿剤の外用は拒否し,食用油の外用を継続した。シクロスポリンの内服により皮疹は軽快した。以上,精神科疾患が共通し食用油外用の嗜癖をもつ 2 例を経験した。治療に対する理解や併存する精神科疾患によってコンプライアンス不良となり,治療が困難を極めることがある。
30 歳,男性。5 日前から生じた口唇,硬口蓋,陰茎,亀頭の紅斑とびらん,左手背,右大腿後面の紅斑を主訴に当科を受診した。9 カ月前より同様の症状を繰り返しており,今回が 3 回目の発症であった。臨床像より固定疹を疑い左手背病変部から皮膚生検を行ったところ,表皮真皮間の液状変性,表皮顆粒層から角層にかけて necrotic keratinocyte を認め,固定疹に矛盾しない所見であった。詳細な問診から食物による固定疹を疑い,症状改善後に口唇の皮疹部でトニックウォーター,アボカド,パクチーの 3 種によるオープンテスト,左手背の皮疹部でキニーネ 1% aq(鳥居薬品)によるパッチテストを施行した。オープンテストは 3 種全て陰性であったが,キニーネ 1% aq によるパッチテストが陽性であり,トニックウォーターに含まれるキニーネによる固定疹と診断した。キニーネはトニックウォーターの苦み成分として用いられることのある添加物である。食物,食品添加物による固定疹は固定食物疹と呼ばれ,キニーネによるものもこれに含まれる。過去の症例を検討したところ,キニーネによる固定疹は他の食物による固定疹と比べ口唇に症状が出やすい特徴があった。固定疹を疑う臨床像で明らかな内服歴がない場合は,食物摂取歴も慎重に聴取し原因を探る必要がある。
症例 1 : 43 歳,男性。両親は血族婚。小児期より顔面を含む全身に角化性紅斑を生じた。近医で毛孔性紅色粃糠疹と診断され,ステロイド外用やエトレチナート内服等で加療された。成長と共に顔面,体幹の紅斑は自然に軽快したが,掌蹠の過角化は残存していた。当科初診時,下顎,両耳介,前胸部に境界明瞭な鱗屑性紅斑および掌蹠の著明な角化を認めた。病理組織では過角化と表皮肥厚を認め,顆粒層は一部で消失しており,毛孔一致性に角栓形成を認めた。全身 narrow band ultraviolet B(NB-UVB),掌蹠に対してはターゲット型 NB-UVB の照射療法,エトレチナート再投与により皮疹は軽快した。症例 2 : 45 歳,女性。症例 1 の姉。生下時より掌蹠に角質増殖がみられ,成長と共に全身に紅斑と落屑が拡大した。エトレチナート,シクロスポリン内服で加療したところ,皮疹は掌蹠にわずかな角質増殖と,膝蓋に角質増殖を残すのみとなった。2 症例とも,毛孔性紅色粃糠疹と一旦診断したが,whole-exome-sequencing 解析の結果,ABCA12 遺伝子に新規のミスセンス変異(c.4601C>T,p.Thr1534Met)をホモ接合体で認め,先天性魚鱗癬様紅皮症と改めて診断した。毛孔性紅色粃糠疹と先天性魚鱗癬様紅皮症の鑑別診断には遺伝子検査が有用であると考えた。
20 歳,女性。3 歳頃,臀部に紅色の局面が出現した。その後,掌蹠にも紅色の局面が出現し,近医で乾癬と診断された。掌蹠の症状が増悪したため当科を受診した。掌蹠型乾癬と診断し,アプレミラスト内服治療を開始したこところ,皮疹は著明に改善した。ホスホジエステラーゼ 4 阻害薬であるアプレミラストは 2017 年に市販された内服薬で,その臨床試験で乾癬の掌蹠病変の概括評価スコアである palmoplantar psoriasis physician global assessment(PPPGA)が 1 以上の患者が 0 になる割合が 46%(プラセボ 25%)と尋常性乾癬の掌蹠の症状に対しての有効性のエビデンスがある。掌蹠型の乾癬は局所療法のみでは難治の場合が多いが,アプレミラストは最初に導入する全身療法として有効な選択肢のひとつと考えられた。
39 歳,女性。9 年前に不妊治療歴がある。当科初診の 1 カ月前に右鼠径部の皮下腫瘤を自覚した。画像検査では右鼠径部の皮下に境界不明瞭な結節を認めた。子宮腺筋症や鼠径ヘルニアの所見は認めなかった。皮下腫瘤に連続する索状組織を結紮し,腫瘤を一塊に摘出した。病理組織学的所見では腫瘤内に管腔構造が多発し,腫瘤は子宮円索と連続していた。免疫組織化学染色にて,アポクリン汗腺,エクリン汗腺,乳腺を否定し,子宮内膜症と診断した。鼠径部の皮下腫瘤では,皮膚子宮内膜症を鑑別に挙げることが重要と考えた。
61 歳,男性。2013 年 5 月に多発性筋炎と診断され,プレドニゾロン(PSL)で治療が開始された。治療開始前の CT で左頚部と左腋窩リンパ節腫脹を認め経過観察されていたが,リンパ節は増大傾向を呈し,リンパ節生検で悪性黒色腫と診断された。精査では原発巣は認められなかった。DTIC 療法と DAC-Tam-Feron 療法を受けたが効果に乏しく,2015 年 3 月からベムラフェニブを開始し転移巣は速やかに縮小したが,転移巣が増大してきたため,2015 年 11 月にニボルマブ 2 mg/kg を 3 週間間隔で投与開始した。 ニボルマブ 2 回目投与後から筋原性酵素の上昇や疲労感を認め,多発性筋炎の増悪と考えた。ニボルマブを継続しつつ,PSL を 5 mg から 20 mg に増量したところ,筋症状は改善した。しかし転移巣は増大傾向にあったため,ニボルマブは 5 回で中止した。イピリムマブも効果がなく,2016 年 6 月からダブラフェニブとトラメチニブの併用療法を開始した。転移巣は速やかに縮小したが,次第に耐性を示すようになった。2017 年 7 月に多発転移により全身状態が悪化し,永眠した。免疫チェックポイント阻害薬により既存の自己免疫疾患が悪化したが,自己免疫疾患悪化時も適切な対応を行うことにより免疫チェックポイント阻害薬は継続可能であった。
56 歳,男性。広汎性発達障害の既往がある。初診 5 年前より陰囊の皮膚腫瘤を自覚していた。病変は全周性に拡大し,痂疲を伴う疣状紅色腫瘤を形成した。組織学的に癌真珠の形成を伴う扁平上皮細胞の増殖と核周囲の空胞を伴う細胞を認め,Buschke-Löwenstein tumor と診断した。CA(シスプラチン,ドキソルビシンの併用)療法 3 コースと広範囲放射線照射(総照射量 60 Gy)を行い,腫瘍は消失した。自験例は human papilloma virus に関連した低悪性度の癌であるが,局所再発しやすいため慎重な経過観察を要する。
57 歳,女性。趣味の筍堀りをしていた初診 16 日前に左大腿部を,同 8 日前に右腋窩部をマダニに吸着された。初診 5 日前から全身倦怠感があり,初診前日には下肢に紅斑を生じた。翌朝前医受診時に 37℃の微熱があり,日本紅斑熱を疑われ同日に当科に紹介され入院となった。各関連症状や血液検査異常はミノサイクリン 200 mg/日内服投与で軽快した。右腋窩の黒色痂皮からの Rickettsia japonica の DNA 検出と,有意な特異的血清 IgM,IgG の上昇を認め,日本紅斑熱と確定診断した。日本紅斑熱の重症化を防ぐためには早期治療が重要とされている。発熱,全身倦怠感,紅斑,関節痛,嘔気などが日本紅斑熱の初期症状として報告されており,前三者が高頻度である。今回,1989 年から 2018 年 4 月までに報告された日本紅斑熱の症例 90 例(自験例含む)を集積し統計的解析を行った。その結果,発熱と紅斑が早期に治療を開始するにあたって有用な初期症状であり,早期治療開始により重症化を予防しうる可能性があることが窺われた。
Annulohypoxylon sp. による趾間黒癬(右第 2・3・4 趾間),足爪黒癬(右第 4 趾)の 93 歳,男性例を報告する。臨床像は炎症のない点状,線状,斑状の黒褐色斑で,Hortaea werneckii による報告例よりも黒色調が強かった。再発時の爪甲病変のダーマスコピーでは淡褐色の線状色素斑がモザイク状にみられた。趾間と爪甲の直接鏡検で多数の黒褐色菌糸を認めた。趾間鱗屑の培養では,コロニーは継代の度に黒色調から白色絨毛状になった。スライドカルチャーでは,菌糸のみで胞子,分生子の発育はなかった。Hortaea werneckii や,ベネズエラ固有の Stenella araguata は否定された。培養検体からの ITS∼D1/D2 領域の遺伝子解析により,Annulohypoxylon sp. と同定された。植物腐敗菌の菌種のヒトへの感染例はない。明らかに黒癬の臨床像を呈し,Annulohypoxylon sp. のみが分離培養できたのでコンタミネーションは否定した。居住環境からの感染と推察された。自験例は Annulohypoxylon sp. による黒癬の世界第 1 例である。 抗真菌剤の外用療法では趾間,爪甲ともに再燃がみられたので,この菌種による黒癬は難治な疾患として対応すべき可能性が示唆された。
Dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)阻害薬関連類天疱瘡の特徴として知られている所見が,糖尿病患者に発症する類天疱瘡の特徴である可能性については,これまで検討されていない。当科で 10 年間に診療した水疱性類天疱瘡 93 例を,発症時の糖尿病の有無,DPP-4 阻害薬内服歴の有無により 3 群に分け,臨床型,検査値,治療につき比較検討した。その結果,発症時に糖尿病のある患者では糖尿病のない患者と比べ,非炎症型かつ抗 BP180 NC16a 抗体が低値である症例が多いこと,また,DPP-4 阻害薬の内服がそれを増強する可能性があることが明らかになった。
John McGrath (MD, FRCP, FMedSci) holds the Mary Dunhill Chair in Cutaneous Medicine at the St John's Institute of Dermatology, King's College London, and is Head of Department for the St John's Institute of Dermatology and its Genetic Skin Disease Unit, as well as Honorary Consultant Dermatologist to the Guy's and St Thomas' NHS Foundation Trust in London. He is also Honorary Professor of Dermatologyat the Universityof Dundee.
前号(vol. 81-4) p.p.281~283 に掲載した綜説 「メラノーマの術後補助療法」(内 博史先生著)の「2.インターフェロン」の1段落目において,印刷の準備過程で生じたミスにより,「IFNβ」 が全て 「IPNβ」 となっておりました。
著者の内先生と読者の皆様に心よりお詫び申し上げ,ここに訂正いたします。
(正誤内容はPDFをご参照下さい)