2020 年 82 巻 5 号 p. 352-356
49 歳,女性。数カ月前より口腔粘膜症状が出現し,徐々に体幹に紅斑や水疱が出現した。抗デスモグレイン(Dsg)1 抗体と抗 Dsg3 抗体がともに高値であり,粘膜皮膚型尋常性天疱瘡と診断した。プレドニゾロン内服が開始されるも頭部の脱毛および頭部,顔面の紅斑やびらんが目立つようになり,大量免疫グロブリン療法を行った。一旦は寛解したものの顔面のびらんを中心とした再発がみられ,二重膜濾過血漿交換を行い症状が落ち着いた。頭部の脱毛を伴う尋常性天疱瘡の報告は少ないが,抜毛テストを行うことで確認できる場合も含めると比較的頻度は高い。成長期毛が外毛根鞘を伴って軽微な外力により抜毛される normal anagen effluvium を呈することや治療により脱毛斑を残さず発毛すること,病理組織学的には最外層を除く漏斗部から毛球上部までの外毛根鞘に棘融解を認めるなどの特徴がある。脱毛斑を残さず発毛することは毛包幹細胞が温存されることが大きな要因であり,毛隆起領域では免疫学的寛容や Dsg2 による細胞接着機能の代償が働くことで棘融解が抑制されている可能性がある。