2016 年 65 巻 2 号 p. 265-269
強直性脊椎骨増殖症は,脊椎の骨増殖により強直変化をきたす疾患で,骨折を合併した脊髄損傷の報告は多いが,外傷の既往なく脊髄症をきたした報告は少ない.今回,前縦靱帯の骨化不連続部で不安定性を生じ,胸髄症をきたした強直性脊椎骨増殖症の1例を経験したので報告する.【症例】63歳男性,建築業.5週間前から特に誘因なく両下肢しびれが出現した.1週間前から両下肢筋力低下を生じ,歩行困難で仕事ができなくなり,当院を受診した.初診時,立位保持不可能で,両鼡径部以下の感覚鈍磨,両下肢腱反射の亢進と両腸腰筋以下MMT4程度の筋力低下を認めた.単純X線像・CTにて強直性脊椎骨増殖症とTh10/11に前縦靱帯の不連続部を認め,機能写で同部位の不安定性を認めた.胸髄症と診断し,初診後8日目にTh10~11の椎弓切除とTh8~L1の後側方固定を行った.術後歩行訓練を開始,術直後より両下肢の感覚鈍磨は改善した.筋力も徐々に改善し術後3週で独歩可能,術後6週で自宅退院した.術後6カ月の現在,両足底に軽度のしびれが残存しているが,両下肢筋力はMMT5に回復,痙性歩行は消失し,日常生活に支障はない.