1973 年 70 巻 5 号 p. 475-484
肝転移を伴い血清 α-Fetoprotein (以下AFPと略す) 陽性を示した Borrmann III型胃癌の1例を報告する. 当症例は血清AFPが384mg/dlと高値を示し, 腹水AFPは約5mg/dlであつた. 制癌剤の投与により血清AFPは著減を認めたが, 自覚症状, 肝機能検査成績は改善せず, 約100病日目に死亡した. 胃癌部及び肝転移部の組織像は共に髄様部に富む腺管型腺癌であつた. なお肝腫瘍部及び非腫瘍部の組織抽出液のAFPの有無を micro-Ouchterlony 法にて調べ, さらに Radioimmunoassay 法にて定量した結果, 前者は48ng/ml, 後者は43ng/mlであつた. 血清AFP陽性を示した胃癌肝転移の本邦報告例は現在まで38例に及ぶが, 血清AFPが本症例の如く異常に高値を示したものは見当らず, 興味ある症例と思われる.