私が医師になり約40年になるが,消化器病診療および研究は大きく進歩した.私は,これまで大腸の微小病変であるaberrant crypt foci(ACF)の研究,腺腫やsessile serrated lesion(SSL)のオルガノイドの樹立や予防薬開発の研究,大腸がんオルガノイドの樹立と抗がん剤耐性関連の研究,等々を行ってきた.これらの臨床検体を用いて種々のオミックス解析を行い,臨床における疑問点を解決する研究を行ってきた.そこから基礎研究に進んだり,あるいは臨床試験を進めてきた.本総会のテーマは,「トランスレーショナル・リサーチが切り開く新しい消化器病学」である.臨床医が行うトランスレーショナル・リサーチが新しい消化器病学の発展に寄与するものと期待している.
白色光内視鏡観察(WLI)では相当数の早期癌を見逃すため,その対策として画像強調内視鏡(IEE)が開発されてきた.IEEには狭帯域光を照射するNBI,BLI,LCIと白色光を照射するTXIなどがある.狭帯域光IEEでは胃の中遠景観察に適する第三世代NBI(3G-NBI),BLI brightが開発されてきた.IEEの腫瘍検出率を比較した前向き研究によって,①胃腫瘍ではLCI,3G-NBI,BLI brightがWLIより高い検出率を示し,②咽頭食道腫瘍ではLCI,NBI,BLIがWLIより高い検出率を示した.上部消化管スクリーニング内視鏡にIEEを活用することが推奨される.
経鼻内視鏡は,咽頭反射が少なく咽喉頭観察がしやすい利点がある.匂いを嗅ぐ姿勢とし,口を大きく開け,舌を動かして口腔~中咽頭を観察する.次いで鼻から内視鏡を挿入し,舌を前方に突き出しアップアングルをかけて舌根を中心に観察する.さらに喉頭蓋谷~喉頭蓋舌面を観察後,発声させて喉頭,左右梨状陥凹を中心に観察する.最後にValsalva法を行い,下咽頭輪状後部~後壁~食道入口部まで観察する.画像強調内視鏡(IEE)併用では,brownish areaを癌拾い上げの指標とする.2009年の経鼻内視鏡による重点観察導入以降,当科で診断・治療に関与した頭頸部表在癌は2023年までに870病変と,それ以前の58病変に比して飛躍的に増加した.
内視鏡画像強調観察法には,デジタル法,光デジタル法,色素法などがある.NBI,BLIに加え,近年LCI,TXI,RDIといった多彩な新規技術が登場し,それらの有用性について文献的な報告が集積されつつある.画像強調観察は白色光観察の限界を補うことで,食道癌やバレット食道,逆流性食道炎などの内視鏡診断精度を向上させ,食道病変の拾い上げにおいて有用とされる一方で,ランダム化比較試験で検証されたデータは少なく,臨床的有用性には課題もある.各々のIEEの特性を知り,臨床に上手に活用していくことが重要である.
早期胃癌は背景粘膜に慢性炎症を有することが多く,その診断は時に非常に困難である.一方で,内視鏡機器の進化は目覚ましく,さまざまな画像強調観察が開発されている.古典的にはインジゴカルミンによる色素散布法が用いられてきたが,近年は電子スコープの技術改良により,光デジタル法やデジタル法による画像強調が主流となっている.特に,短波長を利用したNarrow Band Imaging,Blue Laser Imaging,Linked Color Imagingは,表層の血管や構造の微細な変化を捉えることができ,早期胃癌の拾い上げに有用であることが近年の前向きランダム化試験で明らかとなった.これらの画像強調内視鏡をどのように胃癌スクリーニング検査に落とし込むか,現在も研究が進められている.
上部消化管スクリーニングにおける画像強調内視鏡(IEE)および人工知能(AI)の活用が注目されている.従来の白色光による通常観察は癌などの病変検出に限界があるが,IEEは粘膜や血管構造の視認性を向上させ,診断精度を高めてきた.また,AIの導入により,病変の検出精度の向上が示唆されている.一方で,AIの臨床導入には,法的責任,保険適用,規制上の課題が依然として残されている.今後,IEEとAIを併用することで,スクリーニング検査において新たな診断アプローチの展開が期待される.
患者は78歳男性,HBV既往感染者で25年前にC型肝炎治療で著効となった.今回,HBs抗原/HBe抗原陽性,HBV DNA 4.9logIU/mlのB型肝炎を発症した.IgM-HBc抗体陰性と肝生検からB型急性肝炎は否定され,遺伝子解析ではoccult HBVと異なる変異のない野生株であった.高齢以外に誘因のない自然経過で再活性化したde novo B型肝炎のまれな例と考えられた.
症例は67歳,女性.貧血,黒色便を契機に膵尾部腫瘍からの経乳頭的な出血が判明し,膵癌によるhemosuccus pancreaticus(HP)と診断した.血管内治療による止血を試みたが,無効であった.腫瘍が大きく外科手術は不適と判断した.そこで,放射線療法による止血を試みたところ,奏効した.膵癌が原因のHPで血管内治療や外科手術による止血が困難な場合は,放射線療法も治療選択肢になり得る.
肝細胞癌に対し,アテゾリズマブ(Atezo)+ベバシズマブ(Bev)併用療法を開始した.投与後に貧血を認め,輸血を行い改善したが,再度,貧血と溶血所見を認め,Atezoが原因の自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia;AIHA)と診断した.ステロイド治療で改善し,二次治療へ移行できた.肝細胞癌の免疫療法中の貧血では,AIHAの可能性を考慮する必要がある.