1981 年 78 巻 5 号 p. 1000-1014
ラット腺胃部胃粘膜を組織化学,電顕的細胞化学および走査型電顕により観察した結果,胃粘膜固有層の真性毛細血管内皮細胞に密接して交感および副交感神経終末が認められ,同時に検討したacetylcholinesterase(ACh-E)活性の超微的局在所見から,胃粘膜の毛細血管網は自律神経によつて直接統御されていると考えられた.ラットの拘束性胃潰瘍性病変の発生過程において,血管運動性変化に基づく多彩な胃粘膜微小循環動蒐の異常が観察され,びらん形成部に近づくに従い,血管壁の透過性は亢進していた.びらん形成部近傍の胃游膜局所において副交感神経の組織化学的ACh-E活性は増強し,交感神経のノルアドレナリン蛍光は低下していた.以上から,全身拘束というストレスによつてもたらされた胃粘膜局所の自律神経機能のアンバランスが胃粘膜微小循環障害をひき起し,これに続発する胃粘膜の虚血性変化が潰瘍性病変の発生機構において重要な要因をなすと推察された.