2018 年 22 巻 1 号 p. 37-43
小児がんは医療によって治癒できる病気となってきている.その一方で,厳しい治療や長期入院後の生活は小児がんの子どもにとどまらず,その家族へも影響を及ぼすとされる.そこで,今後の患児と家族支援のあり方を検討することを目的に2007年から10年間で検索を行い,小児がんを持つ子どもの家族支援に関する研究動向を概観し,原著論文による文献研究を行った.
33件の国内における原著論文を対象に,小児がんの子どもの家族支援について内容分析の結果,【治療で生じる問題に対する家族の思い】,【終末期の家族の思いと支援】,【退院後治療に関連した生活支援と移行支援】,【医療ケアの模索】の4カテゴリーが抽出された.治療中から,多職種連携による教育支援と移行支援という二つの側面を踏まえた上での継続的な包括支援ケアシステムが必要と考えられた.
Childhood cancer is becoming curable thanks to newly developed medical treatments. However, the intensive treatment and long-term hospitalization required to achieve positive outcomes has multiple effects on both the patients and their families.
The purposes of this study are 1) to provide an overview of the current research on support for families of children with cancer and 2) to consider how nurses can best support children and their families in the future. The study was conducted by reviewing multiple articles which have been published since 2007 focusing on the trends regarding support for such families.
After analyzing the content of 33 domestic articles, we extracted four categories: “family concerns about side effects from medications”, “family concerns regarding end-of-life care”, “life support and transitional care related to therapy after leaving hospital”, and “exploring for a solution about medical care”. In our view, these four categories were important and deserve further study.
Ultimately, we concluded that a continuous, comprehensive support care system based on the two aspects of educational support and transitional support is necessary.
近年,医療の進歩や社会環境の変化に伴い,小児がんを治療して家庭や地域で生活している子どもたちが増加してきた1).日本では,悪性新生物,慢性腎疾患,内分泌疾患などの14疾患群が小児慢性特定疾患治療研究事業制度の対象となり,悪性新生物の受給者数は増加している2).小児がんによる死亡者数,死亡率ともに制度施行時期(1975年)と比較し大きく低下し,医療の進歩に伴い多くの命が救われ,成人への移行期医療が重要となっていることは確かである3).慢性疾患をもつ子どもは,療養行動を日々の生活の中に組み入れて実施していくことが必要であるが,乳幼児の場合は,自分自身で療養行動を実施することは困難であることが多いため,周囲のサポートが重要となってくる.また,疾患に起因する身体状況を的確に訴えることは難しく,親が状態の観察を行い,状態変化に早期に対処することが必要となる.悪性新生物である小児がんは,乳幼児期から年間2,000人弱発症するといわれ,現在,約8割の小児がんが治癒するようになってきている3).一方で,厳しい治療や長期入院後の社会復帰が困難とも指摘され,家族は,子どもの就園,就学,就職,結婚,出産と次々に起こる課題を子どもの治療を優先にしながら生活している現状がある4).
そこで,今回,小児がんを持つ子どもの家族支援に焦点をあてた研究の動向を把握し,概観することで,小児がんを持つ子どもの家族に対して必要な支援を検討することを目的として文献研究を行った.小児がんを持つ子どもの家族に対する家族支援に関して1998年から10年間の文献分析を行った下山の研究結果5)と比較することで近年の家族支援に関する研究動向を分析した.
用語の定義として,本研究では「家族」を小児がんの子ども,そのきょうだい,両親,祖父母までと操作的に定義した.また,「移行支援」を成人への移行期医療における支援である成人移行支援と操作的に定義した.
小児がんを持つ子どもの家族支援に関する研究動向を概観し,その現状と課題を明らかにする.さらに,子どもと家族を取り巻く社会の現状を踏まえて,看護者が担う家族支援のあり方を検討する.
1. 文献の検索方法文献の検索には,データベース(医学中央雑誌Web)を使用し,2017年9月5日時点の検索結果とした.過去10年間(2007年1月~2016年12月)の文献を原著論文に絞り,「小児がん」,「家族支援」のキーワードを用いて検索した結果,55件の論文が該当し,それらをリスト化した.そのうち,表題と要旨を読み,小児がんの子どもの家族支援を対象とした論文に絞り込み対象文献とし,再リスト化した.重複論文を除き,倫理的配慮がなされている論文に絞って原著論文33件を分析対象とした(表1).
文献番号 | 発行年 | タイトル | 筆頭著者名 | 雑誌名 |
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1 | 2016 | 幼児期の小児がん患児の父親役割 患者家族滞在施設で過ごした症例からの一考察 | 上土居 由佳 | 小児がん看護 11巻1号 P44-51 |
2 | 2016 | ビーズ・オブ・カレッジプログラムを用いた遺族へのビリーブメントケア バタフライビーズの導入を試みた6例の報告 | 小島 綾子 | 小児がん看護 11巻1号 P38-43 |
3 | 2016 | 臍帯血移植・生体肝移植・骨髄移植の3種の移植後再発しその後寛解を得られた乳児ALL患児の両親の思い | 重光 史恵 | 小児がん看護 11巻1号 P29-37 |
4 | 2016 | 幼児・学童期に脳腫瘍を発症した思春期患者の学校生活と親の思い・関わり | 鈴木 さと美 | 小児がん看護 11巻1号 P17-28 |
5 | 2016 | 転院をして陽子線治療を受ける子どもの母親の体験 | 小澤 典子 | 小児がん看護 11巻1号 P7-16 |
6 | 2016 | 救急・集中治療における小児終末期医療の家族看護 | 小沼 睦代 | 脳死・脳蘇生 28巻2号 P123-128 |
7 | 2015 | 小児がんの子どもをもつ母親の不安軽減につながった看護師の関わり 自由記述回答の分析 | 園田 悦代 | 京都府立医科大学看護学科紀要 25巻 P27-34 |
8 | 2015 | 終末期にある小児がん病児の同胞への支援の検討 | 斉藤 正恵 | 小児がん看護 10巻1号 P14-22 |
9 | 2014 | 外来化学療法室開設に伴う場づくりとして、外来で治療を受ける子どもと家族のQOL向上を目指した取り組み | 竹之内 直子 | こども医療センター医学誌 43巻4号 P224-227 |
10 | 2015 | 終末期患児の思いを尊重した母親への支援 | 安東 淑真 | 大分県立病院医学雑誌 42巻 P55-58 |
11 | 2014 | 小児がんの子どもを看る母親が療養体験中にセルフ・エンパワメントを生成するプロセス | 横森 愛子 | 日本小児看護学会誌 23巻3号 P34-41 |
12 | 2014 | 幼児期に小児固形悪性腫瘍で手術を行った小児がん経験者への疾患既往の告知に対する母親の長期的な関わり | 下山 京子 | 小児がん看護 9巻1号 P55-62 |
13 | 2014 | 小児がんの子どもの学校の転籍に関わった母親の体験や思いの調査 | 庄司 靖枝 | 小児がん看護 9巻1号 P29-37 |
14 | 2014 | 小児慢性疾患親の会と専門職のパートナーシップの現状と課題 | 井上 玲子 | 東海大学健康科学部紀要 19号 P79-81 |
15 | 2013 | 終末期の子どもの在宅看護 家族とともにある看護 | 皿海 麻依子 | 福岡赤十字看護研究会集録 27号 P59-61 |
16 | 2012 | 終末期における難治性小児がんの子どもをもつ母親への看護師の関わり 窮地に陥った母親を支えた関わりを検討して | 有森 葉子 | 日本がん看護学会誌 26巻2号 P93-97 |
17 | 2012 | 小児がん患児の父親が患児とのかかわりに抱く思い 小児がん患児の父親とその他の長期入院を要する患児の父親の比較 | 入江 亘 | 小児がん看護 7巻 P28-38 |
18 | 2011 | 小児がんにより長期入院している小児の母親が認識する父親の役割と変化と思い | 江里 文 | 保健学研究 23巻2号 P15-21 |
19 | 2011 | 小児がん患児の父親が困難な状況を受け止めていくプロセス | 納富 史恵 | 日本小児看護学会誌 20巻3号 P59-66 |
20 | 2011 | 小児逝去後の親の思い(第2報) 子どもの逝去後に行った母親との面接を通して | 吉本 雅美 | 小児がん看護 6巻 P26-33 |
21 | 2009 | 子ども・家族の痛みへの主体性を引き出す取り組みと看護師の痛みの捉え方の変化を通して | 田村 恵美 | 看護研究 42巻6号 P425-432 |
22 | 2009 | 小児がんの子どもの死を受容できた事例からみた看護支援の特質 ケアされる母親からケアする母親への変容 | 実藤 基子 | 保健医療社会学論集 20巻1号 P28-40 |
23 | 2009 | 小児がんの子どものEnd-of-Lifeケア 乳児期のEnd-of-Lifeケア 家族への看護を中心に | 油谷 和子 | 小児看護 32巻4号 P497-503 |
24 | 2008 | 多変量解析による日本の小児がん患児の親の闘病生活状況分析 | 森 美智子 | 小児がん看護 3巻 P30-36 |
25 | 2008 | 小児がん患児の親の状況危機と援助に関する研究 日本とオーストラリアの比較 | 森 美智子 | 小児がん看護 3巻 P13-29 |
26 | 2008 | 小児がんで化学療法を受けた幼児の食事の実態と家族の関わり | 船木 康子 | 日本看護学会論文集: 小児看護 38号 P128-130 |
27 | 2007 | 小児がん患児の闘病体制形成・維持段階における母親の心理的プロセス | 服部 淳子 | 愛知県立看護大学紀要 13巻 P1-8 |
28 | 2007 | 外来通院している思春期小児がん患者の自己効力感と健康行動 | 岩瀬 貴美子 | 日本小児看護学会誌 16巻2号 P33-40 |
29 | 2007 | 小児がんを克服し青年後期を迎えた小児がん経験者の社会生活に対する母親の願いと関わり | 石井 佳世子 | 日本小児看護学会誌 16巻2号 P1-8 |
30 | 2007 | 長期入院・隔離を余儀なくされた患児・母親のストレス軽減への援助 | 川村 明美 | 小児がん看護 2巻 P115-121 |
31 | 2007 | 小児がんと診断されてから現在までの家族関係の変化 | 山下 早苗 | 小児がん看護 2巻 P40-48 |
32 | 2007 | 小児がん患児の親の状況危機と援助に関する研究(その2) 闘病過程における状況危機と援助ニーズ | 森 美智子 | 小児がん看護 2巻 P27-39 |
33 | 2007 | 小児がん患児の親の状況危機と援助に関する研究(その1) 闘病生活により発生する状況危機要因 | 森 美智子 | 小児がん看護 2巻 P11-26 |
対象文献を年次推移に沿って,「研究デザイン」,「調査対象」,「研究内容」,「筆頭著者の職種」に整理した.研究デザイン,調査対象,子どもの発達段階についての項目は記述統計値を表し,先行研究との比較を行った.研究内容に関しては,Berelson B6)の内容分析の手法を参考にして手順を作成した.この分析の特徴は,テキストのある特定の属性を客観的・体系的に同定し,推論を行うための方法である.手順としては,①各論文を精読し,②その研究内容から忠実に「家族支援」に該当する語句を抽出し,③語句の前後を要約しコードとする方法で行った.1論文に対して結果を示す内容に絞り,1コードのコード名をつけた.倫理的配慮として,意味内容が変化することのないように著者の表現方法を採用し,分析を進めた.
2) 家族支援に関する内容の分析分析は,家族への支援に着目して行った.対象文献の主張を捉え,文献の内容を精読し得られた文字データをもとに,家族支援を記述している部分を単純化し,コードとして抽出した.次に,それぞれの抽出コードを比較整理しながら,類似した内容にまとめ,サブカテゴリー化した.サブカテゴリーを適確に表す表現へと置き換えカテゴリー化した.カテゴリー名は,先行研究5)結果との比較が容易となるよう,それと近い表現方法とした.
2007年から10年間に,わが国において発表された家族支援に関する対象文献は33件であった.年次別推移は表2に示す.2007年~2016年までの33件の研究論文の動向から見えたこととして,筆頭著者が研究者から実践者へと増える傾向にあった.そのため,カテゴリー毎に筆頭著者の別も把握した.
研究デザインに関して質的研究28件(84.8%),量的研究5件(15.2%)であった.質的研究が8割を占めていた.調査対象は,母親が16件(48.5%),父親が2件(6.1%),両親11件(33.3%)で患児が2件(6.1%),母親と患児,家族と専門職を対象とした研究は各1件(3.0%)であり,家族支援の対象として,両親特に母親を対象に研究されていた.子どもの発達段階は,乳児期2件(6.1%),幼児期8件(24.2%),学童期6件(18.2%),思春期2件(6.1%),青年期2件(6.1%),子ども全般14件(42.4%),記載なし1件(3.0%)と幼児期の子どもを対象とした研究が最も多く,次いで学童期の子どもを対象としていた.
著者職種 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 計 |
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実践者 | 1 | 1 | 2 | 0 | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 | 5 | 17 |
教員 | 6 | 2 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 4 | 1 | 1 | 16 |
年次別計 | 7 | 3 | 3 | 0 | 3 | 2 | 1 | 5 | 3 | 6 | 33 |
33件の文献から,研究内容を類似性に基づき分類・命名しカテゴリー化した結果,【治療で生じる問題に対する家族の思い】,【終末期の家族の思いと支援】,【退院後治療に関連した生活支援と移行支援】,【医療ケアの模索】の4カテゴリーが抽出された.以下,カテゴリー別にその概観を述べる.【 】はカテゴリー,「 」はサブカテゴリー,[ ]はコードを表す.
文献番号 | 発行年 | コード | サブカテゴリー | カテゴリー | |
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3 | 2016 | 実践者 | 長期間の治療過程において患児の成長発達を願う行事や遊びによる家族の安堵 | 家族が要望する 医療支援 | 治療で生じる問題に対する家族の思い13コード(39.4%) |
26 | 2008 | 実践者 | 化学療法を受けた子どもの食事に対する要望と医療の改善 | ||
7 | 2015 | 教員 | 入院中の小児がん患児の母親に対する言葉かけや関わりの看護の重要性 | 治療過程で生じる母親の不安や思い | |
11 | 2014 | 教員 | 子どもの闘病を支える母親の感情変化を捉え,母親の持つ力を発揮できる支援の必要性 | ||
17 | 2012 | 実践者 | 長期入院児の父親が一緒に過ごした時間は父親の精神的負担に影響 | 父親の役割と家族役割 | |
18 | 2011 | 実践者 | 長期入院児の母親が抱く父親の役割変化と存在意義 | ||
19 | 2011 | 教員 | 小児がんの父親が困難な状況を受け止め,努力し,自身の成長としていた | ||
24 | 2008 | 教員 | 小児がんの親が抱える家庭崩壊につながる問題として夫婦間の感情的ずれと心身疲労 | ||
25 | 2008 | 教員 | 闘病生活における問題点,患児の心身疲労と学業,同胞の問題 | 家族のストレスコーピング | |
27 | 2007 | 教員 | 子どもの診断からその子らしい生き方の目標を持てるまでの心理的プロセスの存在 | ||
30 | 2007 | 実践者 | 長期入院を余儀なくされた幼児の疾患に対する母親の不安と疲労によるストレス | ||
32 | 2007 | 教員 | 親の家庭崩壊要因として心身の疲労からくる抑うつ・不安傾向と同胞への支援ニーズ | ||
33 | 2007 | 教員 | 親の危機的状況要因として心身の疲労,留守家庭問題,学校問題 | ||
22 | 2009 | 教員 | 小児がん患児が死を迎える際の家族の心情に対する看護介入 | 終末期の患児や家族の思いに沿った看護支援 | 終末期の家族の思いと支援8コード(24.2%) |
6 | 2016 | 実践者 | 小児集中治療領域における終末期にある児と家族の体験とニーズ | ||
9 | 2015 | 実践者 | 子どもにとって遊びや夢の実現を目指した終末期支援体制のあり方 | ||
23 | 2009 | 実践者 | 最期まで乳児期の家族が看護師と児の成長を共有できたことで強めた信頼関係 | 家族の意思決定支援 | |
15 | 2013 | 実践者 | 在宅看取りにおいて両親の気持ちの理解と決定に対する肯定的支援 | ||
16 | 2012 | 実践者 | 終末期における家族支援として看護師は母親のよき理解者となることの必要性 | ||
20 | 2011 | 実践者 | 子どもの逝去後も遺族に対する感情表出の場を提供することの必要性 | 逝去後の家族支援の取り組み | |
8 | 2015 | 実践者 | 小児がんで亡くなった児の同胞への支援として,同胞が自らの役割を発揮できる支援 | ||
4 | 2016 | 実践者 | 合併症や治療の特徴から学校生活における課題を予測し児に応じた学校環境選択 | 継続的な治療に関連した生活支援 | 退院後治療に関連した生活支援と移行医療8コード(24.2%) |
10 | 2014 | 実践者 | 在宅小児の外来化学療法室に対する要望として安心安全と子どもにとっての快適さ | ||
28 | 2007 | 教員 | 思春期において,感染予防行動と生活リズムに関連する習慣が自己効力感に与える影響 | ||
12 | 2014 | 教員 | 幼児期発症した小児がん経験者の母親が抱く告知に対する課題 | 退院後の親の苦悩と家族の変化 | |
31 | 2007 | 教員 | 小児がんと診断された家族の在宅生活へ至る家族関係の変化 | ||
13 | 2014 | 教員 | 復学へ向けた医療者,学校関係者,親の会連携による家族支援 | 移行医療と専門職連携 | |
14 | 2014 | 教員 | 慢性疾患児の成長に応じた「親の会」の支援役割と専門職の連携 | ||
29 | 2007 | 教員 | 青年期後期を迎えた子どもの母親が切望する成人後の自立した人生 | ||
21 | 2009 | 実践者 | 「痛みアセスメントツール」導入による看護師のケア変化 | 積極的ケアによる変化 | 医療ケアの模索 4コード(12.2%) |
5 | 2016 | 教員 | 転院して陽子線治療を乗り越える肯定的意味づけの支援の必要性 | ||
2 | 2016 | 実践者 | ビリーブメントケアのツールであるバタフライビーズの効果 | 新たな医療ケアの模索 | |
1 | 2016 | 実践者 | 患者家族滞在施設での闘病生活に付き添う父親役割の重要性 |
このカテゴリーは4つのサブカテゴリーで構成され,13コード,コード全体の39.4%を占めていた.4サブカテゴリーは,「家族が要望する医療支援」,「治療過程で生じる母親の不安や思い」,「父親の役割と家族役割」,「家族のストレスコーピング」であった.治療過程で生じる問題に対する家族の状況や思いが示されており,【治療で生じる問題に対する家族の思い】とした.[化学療法を受けた子どもの食事に対する要望と医療の改善],[入院中の小児がん患児の母親に対する言葉かけや関わりの看護の重要性], [長期入院児の母親が抱く父親の役割変化と存在意義],[親の危機的状況要因として心身の疲労,留守家庭問題,学校問題]などのコードで構成された.先行文献5)と比較し,家族の思いには母親のみならず父親を対象とした研究が含まれるとともに,同胞のストレス介入も家族支援として調査されていた.筆頭著者が教員である文献8件,実践者である文献5件であった.
2) 【終末期の家族の思いと支援】このカテゴリーは3つのサブカテゴリーで構成され,8コード,コード全体の24.2%を占めていた.3サブカテゴリーは「終末期の患児や家族の思いに沿った家族支援」,「家族の意思決定支援」,「逝去後の家族支援の取り組み」であった.終末期に抱く家族支援の方法と検討が記されていたため,【終末期の家族の思いと支援】とした.[小児がん患児が死を迎える際の家族の心情に対する看護介入],[在宅看取りにおいて両親の気持ちの理解と決定に対する肯定的支援],[小児がんで亡くなった児の同胞への支援として,同胞が自らの役割を発揮できる支援]などのコードで構成された.先行研究5)では,家族支援として両親が対象であったが,今回,同胞と子どもへの支援も必要があると研究されていた.筆頭著者が教員である文献1件,実践者である文献7件であった.
3) 【退院後治療に関連した生活支援と移行支援】このカテゴリーは3つのサブカテゴリーで構成され,8コード,コード全体の24.2%を占めていた.3サブカテゴリーは「継続的な治療に関連した生活支援」,「退院後の親の苦悩と家族の変化」,「移行医療と専門職連携」であった.退院後も継続される治療に関連した生活支援や移行医療支援が記されていたため,【退院後治療に関連した生活支援と移行支援】とした.[思春期において,感染予防行動と生活リズムに関連する習慣が自己効力感に与える影響],[小児がんと診断された家族の在宅生活へ至る家族関係の変化],[青年期後期を迎えた子どもの母親が切望する成人後の自立した人生]で構成された.先行研究5)では,初期治療期の看護が研究内容として12.9%を占めていたが,今回,退院後治療に関連した生活支援と移行医療であった.筆頭著者が教員である文献6件,実践者である文献2件であった.退院後治療に関する文献では,教員による研究が6件と多かった.
4) 【医療ケアの模索】このカテゴリーは2つのサブカテゴリーで構成され,4コード,コード全体の12.2%を占めていた.2サブカテゴリーは「積極的ケアによる変化」,「新たな医療ケアの模索」であった.これまでにない医療的ケアの取り組みが記されていたため,【医療的ケアの模索】とした.[痛みアセスメントツール導入による看護師のケア変化],[患者家族滞在施設での闘病生活に付き添う父親役割の重要性]で構成された.先行研究5)では,がん告知に関する研究があったが,今回,家族支援として新たな医療ケアの実践研究があった.筆頭著者が教員である文献1件,実践者である文献3件であった.
小児がんを持つ子どもの家族支援に関する概観から,見えてきた現状と課題について検討していきたい.
1. 小児がん治療の進歩と長期的な移行医療支援医療の発展により小児期に発症する慢性疾患患者の寿命は上昇し続け,近年,小児慢性疾患治療研究事業に登録されている18歳未満の患者は9~10万人で推移し,そのうち毎年約1,000人の患者が20歳を迎えている7).小児がんなど悪性新生物も含まれ,20歳を超えた成人医療制度の継続が必要となる.今回の文献研究では,【治療で生じる問題に関する家族の思い】が最も多く,少ない事例で起こる小児がんの長期治療による身体的・精神的・社会的な家族への影響に対する直接的な実践看護のあり方が研究されていた.一方,小児がんで死亡する割合は5~14歳の年代で1位を占める現状7)もあり,小児がんの終末期医療は子どもとその遺族であるきょうだいも含めた家族の生活に影響を及ぼしていた.その影響に対して家族支援が重要であることを臨床実践者によって報告され,きょうだいの生活に着目する必要性が示唆されていた.【医療ケアの模索】に含まれる具体的な家族支援として,ビリーブメントケアや患者家族滞在施設は家族にとって新たな取り組みが効果的役割を果たしていた.
順調に治療が進み退院できたとしても,小児がん経験者の約半数は,長期治療の影響でがんそのものか,あるいはがん治療による身体的問題,教育的課題を抱えているといわれ,数十年経過してからの健康障害も報告されている8).そこで,思春期・青年期をあえて成人移行期とよび小児がん患者に対して10代早期より成人になることを前提とした心理的準備を進めていく「移行支援」が開始されている9).小児がんの子どもと家族への支援として,退院後も就学し,成長し続ける生活を見据えた移行支援に臨床で取り組んでいくことが,今回の研究結果から課題として挙げられた.
2. 退院後の家族全体への支援と就学支援の視点本研究で主な研究対象と筆頭著者を分類した結果,実践者による研究が増えている現状があった.入院治療中,母親が付き添い者として最も身近で子どもを支えており,その苦悩と思いを看護師が捉えやすいことがその要因の一つにあると考えられる.入院中の母親の心身の苦労が最も強い時期とその内容として,告知から入院までのショック,無菌室の入室・病状悪化による心労と不眠,余命告知による子どもの生命の不安と学業の遅れが強いことを明らかにしている10).治療開始と治療期間中において,多くは母親を対象に研究されていたが,一方で,[患者家族滞在施設での闘病生活に付き添う父親役割の重要性]にあるように,母親だけでなく父親ときょうだいも含めた家族を対象として少なからず研究がされてきたこと,これは先行研究5)と比較して明らかに家族を看護の対象としてきたことがわかる.その父親やきょうだいの苦悩は,医療者から直接目に見えない家庭や職場で起こっている場合があり,父親が孤立しやすい立場であるという研究結果11)もあった.
さらに,小児がんは低年齢に発症し,1年ほどの入院のことが多く,今後は外来でのフォローアップ後の継続的な支援に向けて,教育機関と連携した実態把握が必要と考えられた.石田は,小児がん治療に携わる他分野の医療者を含めて連携し,看護師(将来的にはナースプラクティショナーを含めて),ソーシャルワーカー,臨床心理士などのコメディカルが中心的役割を担う長期フォローアップシステムの構築が望まれる12)と述べ,子どもへの医療と教育継続を多職種で支援することが重要としている.退院後の親の苦悩について,庄司は,子どもの教育・就学問題が大きく生活に影響を及ぼし,成人してからの就労問題につながっていると述べている13).これは,小児がんを持つ子どもだけに限らず,そのきょうだいにも影響を及ぼしており,退院後の継続した治療に関係する子どものきょうだいを含めた家族を支援するため,訪問看護師・保健師は両親にとどまらず家族という一つの集合体として対象を継続支援していく介入の必要があると考えられた.今後は,家族支援に向け地域での医療・福祉・教育現場との包括支援ケアシステムが課題であろう.
近年10年間の小児がんを持つ子どもの家族支援に関する33件の文献を内容分析した結果,その研究内容は事例研究から母親だけでなく父親ときょうだいの思いを調査した研究も報告され,実践者から発信された医療現場での効果的な取り組みと退院後の子どもと家族の問題を調査した研究へと広く行われていた.今後は,多職種連携により,治療の場を問わず,長期治療を要する小児がんを持った子どもの教育支援と成人医療移行期支援の二つの側面を踏まえた上で看護することが家族支援の手立てになると考える.