抄録
[はじめに] 佐久病院看護専門学校では、看護学生の実習の一つとして、「農場実習」を組み込んでいる。昭和54年に始まったこの実習も今年で25年を迎えた。今回は、その活動を報告する。
[実習の目的] 実習の目的の一つは、農作業体験によって、その患者さんの背景を知ることである。佐久病院看護専門学校の学生は、卒業すると長野県内にある11の厚生連病院に就職する。厚生連病院のほとんどが農村に存在し、農業に関わる患者さんも少なくない。もう一つは、感性豊かな時期に、「食の大切さ」を感じとり、医療に関わる看護師が「地産地消」の推進役になってほしいという願いである。いま日本は輸入農産物が氾濫し、食品添加物・ポストハーベスト農薬によって汚染され、そのうえ農作物の旬が失われ、健康をつくる上でも大きな障害になっていると考えるからである。
[実習の受け入れ] 佐久病院看護専門学校では260人の学生が学んでいる。農場実習は4-12月の間に行なわれ、5-6人ずつグループになり、学校から約1.5km離れた農村保健研修センター隣の実験農場(1.5ha)で行なっている。受け入れ担当は実験農場長(佐々木)である。
[実験農場について] 実験農場は臼田有機農業研究協議会で主に管理をしている。行政、農協、佐久病院の三者で毎年80万円ずつ拠出し、臼田という土地にあった農作物の研究や、「家庭の生ごみは大地の資源」と位置づけている臼田堆肥製造センターからの生ごみ堆肥の普及、農薬や化学肥料の環境・人体影響調査などを行なっている。もちろん、実験農場は25年間、無農薬、無化学肥料栽培である。
[実習の内容] 農場実習の看護学生は、赤いつなぎを着て、8時30分、自転車で農場に集合。有機農業をなぜ行なうかなど、実習についての簡単なオリエンテーションを30分ほど行う。その後約1時間農作業を行い、お茶を飲みながら、「臼田有機農業研究協議会」「輸入食品とバーコード」「農薬・化学肥料による人体影響」「農業機械災害」などについて説明する。昼食後も農作業。時期にもよるが農場で収穫された農作物をいただくおいしい実習でもある。
[実習の成果] 看護学校に在学するたった1日の実習でもあり、その成果を評価することは難しいが、学生から提出される実習レポートには感動的なものが多い。毎年発行される「実践的有機農業に関する調査研究」に掲載されているが、なかには「農家にお嫁にいきたい」という学生もいる。今年の看護学校の卒業式では卒業生を代表した答辞のなかで「BSEや鳥インフルエンザなどで食の安全が叫ばれている昨今、本校の特徴である農場実習で食と健康の結びつきを学べたことは印象的であり、貴重な体験であった」といううれしい言葉もあった。最近は、東京の大学生(武蔵大学経済学部、國學院大學など)の農場実習も受け入れている。