日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: sympo1
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シンポジウム1
地域医療を担う人材育成のための大学病院の役割
植村 和正井口 昭久
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抄録

 地域医療における医師不足がきわめて大きな社会問題となっている。名古屋大学医学部附属病院(以下、名大病院)とその関連病院における医師不足の現状を検討することで、地域医療を担う人材育成に果たす大学病院の役割に関して考察する。
 名大病院とその関連病院は卒後臨床研修のためのネットワークを形成して医師の育成に努めてきた。40年近い「非入局スーパーローテート研修」の歴史に対する信頼からか、新医師臨床研修制度が発足してからネットワーク内の研修医総数はそれ以前より200名ほど増加している。ネットワーク全体の医師数も減少していない。少なくとも内科に関していえば、いわゆる「大学への医師の引き上げ」も生じていない。にもかかわらず、名大病院とその関連病院においても深刻な医師不足が存在する。その実態は何であろうか? 
 確実にあるのは病院間(地域)偏在である。ネットワーク全体で医師数が増えたが、医師数が減少した病院数が増加した病院数の半数以上ある。つまり、特定の病院は研修医数増加の恩恵に与っていない。このような地域では、その増大する業務量に疲弊して勤務医から開業医へのシフトが起こっているのではないかと推測される。診療科間の偏在が言われているが、ネットワーク内ではここ2-3年の医師数の変動において診療科間に大きな異同はない。小児科等の医師不足感の強さは、単に医師数のみならず業務量増加(激務化)も関与しているのではないか。 
 このような事態が生じる背景は何だろうか。上述したように、名大病院と関連病院においては新医師臨床研修制度の影響は新しい問題ではない。40年近い間、研修医獲得に関しては自由競争にあった。それよりも、大学医局の人材派遣機能の低下が大いと思われる。医局権威の衰弱とも言えるが、若手医局員が激務の地域病院への赴任を受け入れなくなっている。 
 受け入れ側についてはどうか。近年の医療構造の変化により慢性多臓器新患を患う高齢患者が増加している。医師数あたりの患者数は増加していなくても、1人の患者が多くの専門診療科を受診するようになっている。病院全体の業務量は相当に増加している。全人的医療を担える総合診療能力を有する医師の減少と多くの若手医師が臓器別高度専門分化型病院でキャリア形成を行っていることがこの背景にあるのではないか。また、地域住民の高度専門医療への希求も相当強い。大事な我が子が病気になれば、たとえ風邪でも小児科専門医に診てもらいたい。それも24時間、365日である。 
 大学医局の人材派遣機能への依存が限界にきている今日、地域医療人育成のための大学医学部および大学病院の役割は、「地域医療を担える人材の養成」と思われる。これは研修医-若手医師の総合診療能力の育成だけでなく、地域医療への熱いまなざしを持った人材の育成、からなる。つまり、義務として地域に赴任するのではなく、「地域で働くことに喜びを感じる医師を育成する」ことである。シンポジウム当日は、まだ端緒についたばかりであるが、名大病院として試行を始めた「地域医療人育成プログラム」について紹介する。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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