日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2E05
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一般演題
正常血圧の人間ドック受診者における脈波伝播速度と高血圧発症との関連
高瀬 浩之谷口 正仁鳥山 隆之岡戸 建央田中 覚水上 泰延
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キーワード: 高血圧症, baPWV
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抄録

<緒言>Arterial stiffnessは動脈壁の固さを意味する心血管危険因子のうちの1つで、脈波伝播速度(PWV)を計測することで非侵襲的に評価することができる。PWVは種々の要因で増加するが高血圧とも関連が深い。しかし、臨床の場面でPWV高値の正常血圧者にしばしば遭遇する。そこで、我々は正常血圧者において高血圧症が臨床的に診断される前、つまり『高血圧前段階』の間に、PWVが増加するかどうか検討した。
<方法>2001年7月から2004年6月までの期間中、当病院で毎年の人間ドックを受診している正常血圧者(4,074名)のうち、form PWV/ABI(コーリン・メディカルテクノロジー)を用いて上腕-足首間PWV(baPWV)を計測した460名(27-79歳、平均年齢57歳;女性=44%)を対象とした。降圧薬・糖尿病薬・高脂血症薬などの薬物治療を受けている対象者は今回の検討から除外した。全ての対象者は、登録時にルーチンの身体検査、心電図検査、胸部X線検査、心血管疾患危険因子に対する血液検査およびbaPWV測定を行った。登録後、対象者を680±274(平均±標準偏差)日間追跡調査し、登録時のbaPWVと高血圧症発症率の関係を検討した。高血圧症は、収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血90mmHg以上、あるいは医師からの降圧薬処方開始と定義した。
<結果>観察期間中、高血圧症は52名の対象者(11.3%)に発症した。高血圧症発症者は非発症者に比べて、高齢(61 vs 56歳、p<0.0001)、BMI高値(23.5 vs 22.3 kg/m2、p=0.0038)、血圧高値(126/77 vs 117/71 mmHg、p<0.0001)、HDL-コレステロール低値(58.8 vs 64.2 mg/dl、p=0.0144)、中性脂肪高値(133 vs 104 mg/dl、p=0.0011)であった。性差、腎機能、総コレステロール値、空腹時血糖値、喫煙の有無では有意差を認めなかった。当院におけるbaPWVの正常値(1,400 cm/sec;60歳未満、1,600 cm/sec;60-69歳、1,800 cm/sec;70歳以上)を用いたカプラン-マイヤー解析では、高血圧症の発病率は、baPWVが正常値以上の対象者のほうが(171名中29名;17.0%)baPWVが正常値未満の対象者より有意に高率であった(289名中23名;8.0%、p<0.0001)。登録時の年齢、性別、BMI、収縮期および拡張期血圧、糖尿病、脂質異常、血清クレアチニンと喫煙習慣で補正した多変量ハザード解析では、登録時のbaPWVの危険率は1.002であった(95%CI:1.001-1.003、p=0.0022)。結論として、増加したbaPWVは、正常血圧者における将来的な高血圧症発症の増加と関連している。よって、正常血圧者におけるbaPWVは将来の高血圧症発症予測のマーカーになる可能性がある。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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