日本農村医学会学術総会抄録集
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第55回日本農村医学会学術総会
セッションID: 2E11
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一般演題
地域医療における出前講演の意義と実績報告
水野 章埜村 智之相田 直隆石川 雅一諦乗 正伊藤 恭子豊田 芳典瀬古 ちさと
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抄録

<緒言> いなべ総合病院は三重県最北に位置する220床の病院ですが、近隣に大病院はなく地域の中核病院としての位置付けであります。診療圏人口は約71,000人となりますが、病院の川上人口はわずか20%で地理的条件はやや不利な立地となっております。病院の歴史は47年ありましたが、建物の老朽化をきっかけに平成14年9月新築移転し、総合病院として再出発いたしました。しかし、優秀なスタッフが揃っているにも関わらず、地域の中では病院の診療機能の拡充はなかなか浸透しませんでした。そこで、地域の中に出向いて、健康講話などをして、地域住民の健康管理の啓蒙をしつつ、病院機能の宣伝を始めることにしました。
<方法> 対象はいなべ市・東員町を96地域に分け、まずJA各支店が持つ老人会や老人クラブから始めました。翌年からは行政がもつ健康福祉部の老人クラブや女性部、地域にある健康クラブなどからも依頼が来るようになり、頼まれれば何処でも聴衆の多少に拘わらず出かけました。講演の内容は高齢者の健康維持・健康管理の話、生活習慣病や癌の話、健診の話など要望に応じて決めました。講演はあまり難しくならないようにして、スライドで写真やイラストなどを多用してビジュアルにまとめ、お話しました。2年目からは腰痛防止や寝たきり予防のリハビリ実演、コメディカルの話なども行なうようにしました。
<結果> 地域別には96地域中53地域に延84回講演に出かけました。さらにその他の行事や依頼に応えて、3年間で合計141回の出前講演を行いました。延回数では院長45回、内科22回、外科8回、整形外科2回、小児科3回、その他の医師2回、理学療法士・作業療法士で49回、看護師11回、管理栄養士・薬剤師など7回となっています。聴衆は20名から300名位まで、平均約65名でした。「院長さんはじめ病院の先生が来て話をしてくれた」というところに意義がありました。即ち、自ら出向いて地域住民に近づいて行く姿勢に近親感を覚え、診療や健診に足を運んで頂けるようになりました。
 平成14年度の新外来患者数は13,761名で新入院患者数は2,611名であったのが平成17年度では前者が23,974名(174%)、後者が3,810名(146%)に増加し、ベッドの稼働率も82.3%から92.7%に上昇しました。健診センター受診者数は平成15年度が2,068名でしたが17年度には3,746名(181%)に増加しました。事業収益は14年度が33億8千万円で17年度は46億9千万円(139%)に増加しました。これらの実績は大学にも好印象に伝わり医師数も14年度は24名でしたが17年度には32名に増えました。地域住民の健康管理も担おうとする病院の姿勢は行政にも理解して戴き、市民健診の人間ドッグに組込んで頂きました。また行政とともに病気の第一次予防・第二次予防を促進する地域一体型の健診システム作りの基盤もできたといえます。待っていては道は開かれません。こちらから出かけて地域に溶け込んでいく姿勢が良い医療環境を作ることにつながります。

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© 2006 一般社団法人 日本農村医学会
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